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小学校の入学式
私の通っていた小学校は山の上に立っていた。
過去形なのは既に合併され、閉校になっているからだ。
山の上まで息を切らして家から30分歩いて登るとやっと学校の門にたどり着く。
そして、その門からさらに20mほど登るとようやく校内に入れる。
小学校の門を上った左側にはそれは見事な枝垂桜が生えている。
これはかろうじて現在進行形。地元の友達に聞いたら、私たちの母校はその友達の勤めているトラックの会社が資材を置く場所になっているらしい。
そして、あの大きかった枝垂桜は大分切り込まれたとはいえ、まだ、毎年花を咲かせていると言う。
元々とても寒い地域なので、桜は5月連休辺りに咲くことが多い。
まず、入学式には桜は咲かないのだ。
でも、私の小学校の入学式の年にはその枝垂桜が満開だった。
それももう、満開を過ぎ、少しの風で桜吹雪がおきるほどに、その年は早く咲いていた。
わざわざ桜を後ろにして写真を撮ったことを覚えている。
集合写真にも桜吹雪が移っているほどに。
美しい思い出なのだ。
そして、その美しい思い出こそがその後私に怖い思いをさせる。
人見知りだったし、あまり、クラスメイトの事も気にしないで休み時間を一人で過ごす私は、入学式の思い出を忘れられず、花が散った後も枝垂桜の下によく行っていた。
私は目が悪い。就学時検診で目の悪さを指摘はされていた。両眼とも0.01見えていない状態だった。眼鏡も特殊だったので、入学してしばらくしてからやっとできてきた。現在の技術でも即日ではできてこない。
入学式の桜の美しさを忘れられなかった私は、裸眼で桜に下に行っていた。もう葉桜になっても、あの入学式の日の美しい桜吹雪を忘れられずに。
ある日、近くの物しか見えない私の目の前に急に毛虫が現れた。どうやら枝からぶら下がっているようだ。
その頃の私は知らなかった。葉桜になった桜には毛虫がいっぱいつくことを。
目が悪くて見えないものだから、そうなると後ろにも横にもいるような気がしてギュッとしゃがみ込んで這うように桜の木の下を出たのを覚えている。
幸い肩の上などには落ちていなかったのだが、あんなに怖い思いをしたのは初めてだった。それまでも飛んでくる虫が突然目の前に来ることはあったが羽音が聞こえるので予想はできた。
今は勿論、桜の花は好きなのだ。しかし、花が終わった後は決して桜の木の下は歩かない。
それ以来、桜っていいよね。と心からは言えない位には桜が嫌いになってしまった。
【了】
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