8人が本棚に入れています
本棚に追加
折り紙
僕は、産まれた頃から手先の動きが悪く、
握力もほとんどないほど身体が弱かった。
僕は、中学を卒業してからは病院に入院し、
寝たきり状態になったのだ。
毎日、同級生のたった一人だけの友達がお見舞いに来てくれている。
わざわざ来なくてもいいのにと、
感謝はしているが、時間を割いてまで来てほしくはないと思っていた。
毎日、その子からいろいろな話を聞く。
内容は理解できるものの、やはり、自分の目で見たいと思ってしまう。
僕は、この身体のせいで、今までいじめられてきたものだ。
いじめられて辛いが、いじめっ子達の言ってることは、僕の人生の核心をついている。
「お前、何で生きてるんだ?
何もできないお前の生きる意味って何だ?」
と、この言葉がいつも僕の心の中で叫んでいるのだ。
たしかに、こんな何もできない身体に、
いったい何ができるんだ?
寝たきりの僕にいったい、何を残せるのか?
日々そんなことを考えて生きることしかできなかったのだ。
ある日のこと。
いつものようにあの子が来た。
「今日はね、こんなことがあったんだよ。
──────────────。」
いろいろな話を聞かせてもらった。
そこで、僕も話をしてみた。
「……ねぇ、折り紙ってある?」
「!!!」
「………どうしたの?…」
「いやぁ、久々に声を聞いて、ちょっと
感動しちゃってね…」
ハハッ
そんなことで泣くことかな。
やっぱり、この子は面白い。
僕がやれることといったらこれくらいだろうか。
「折り紙ね。今持ってくる!」
病院内を全速力で走り回り、ものの数分で折り紙が届いた。
マナーは守ってほしいが。
「はい!折り紙ね。これで何か作るの?」
「まあ…リハビリってやつだよ…」
「そういうことね。
あ!そろそろ帰るね。また明日。」
笑顔で手を振り帰っていった。
その日の夜、僕は折り紙を折っていた。
手先がなかなか上手く動かせないので、
何度も失敗した。
「………あぁ…あの日が懐かしいな……」
小学生の頃の話だ。
平和祈願のために全校でツルを折っていたが、
僕だけはツルは折れなかった。
手先が動かず、紙すらもまともに折れなかったのだ。
「こんなのもできねーのかよ。ダッセーな。」
そんな言葉を言われまくったものだ。
だけど、あの子だけは違った。
「折り方難しいよね。一緒に頑張ろう。」
あの子だけは僕に寄り添ってくれたのだ。
最初は同情のつもりなのかと思っていたが、
毎日、僕に寄り添ってくれたのだ。
次第に僕も心が開けるようになった。
あの子は、こんなところで時間を潰してはいけない。
あの子は、この世界に必要な子だ。
そんなことを思い出していると、やっと折り紙が完成した。
「……よし、仕上げもOK…
あとは、こうするだけだ…」
翌日、あの子が部屋に来た。
「ねー。折り紙で何かでき────
あれ?どこ行ったの?」
ベットには誰もいなかった。
あるのはたくさんの折り紙のごみの山だけ。
「ねー。どこ行った─────────────
!!!!」
外を覗いてみると、血を流して倒れてる人影が見えた。
「すぐに知らせなきゃ!!」
すぐさま振り替えると、ベットの上に何かあるのを見つけた。
「これは…ツル?」
しわくちゃで不細工なツルがあった。
これは、あの子が作ったのか?
羽の部分をよく見ると、メッセージが書いてあるのが見えた。
そこにはこう書かれていた。
「君へ。今までありがとう。
僕はもう十分幸せだよ。
君は自分の道を歩んでくれ。
生まれ変わったら、また君に会いたいな。」
ボロボロの字でそう書いてあったのだ。
僕は涙が込み上げてきた。
「ありがとう…大切にするよ……」
今まで仲良くしてくれた友。
今まで助けてくれた友への感謝の気持ちとして、
彼が生涯をかけて残したもの。
その、しわくちゃで不細工なツルには、
長生きするように思いを込めたもの。
そして、彼の命は、友達をお見舞いという呪縛から解き放つために思いを込めて命を捨てた。
それが、彼にできる、
唯一残せるものだと信じていたから─────
最初のコメントを投稿しよう!