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三波(ミナミ)と汐織(シオリ)の場合
『まぁ…オレが、言うのも変ですけど、三波先輩は、何であんなヤツと付き合おうって、思ったったんすか?』
とある日の放課後、一応顔見知りの後輩に家の近所で、待ち伏せされたのは、今から少し前の事だった。
この後輩は、俺が付き合う事になったカレの隣に住んでいる幼馴染で、戸室くんと言う。
しかも…カレの姉と付き合っているらしい。
『えっと…戸室くんの家とは、逆方向では?』
『そうっすね…まぁ…汐織に聞いた感じですっよ…』
それしかないよね…
しかも、その当人から戸室くんの知らぬ間に言葉で、やんわりと紹介されたとは、言わない方が良いかと思ったけど、汐織の方からバレてるらしいなぁ…
『で…本題なんですけど…』
『なに?』
『汐織ですけど、何って言うか…アイツ自分でも、言っていると思うけど…』
汐織を知っている連中の中には、難有りなヤツだと、言うヤツの方が多い。
しかも汐織の見た目は、地味で目立つ事はない…
『…面倒くさいっしょ?…』
どう返事を返したら良いかと、迷っている俺の顔は、少し苦笑っていただろう。
『隠さなくても、いいっすよ。潔癖症に対人恐怖症なんって、難有りとしか言えないし…』
『………』
『だからって言うか、そこが何で? ってなります…』
付き合っている理由を、話せと?
『理由って、訳じゃないっすよ。何って言うか、オレは慣れてるけど、先輩は、違うっしょ? それに汐織は、男だし。いくら告られたって言っても、付き合うとは、また別しょ?』
戸室くんの言い分は、もっともだ。
『もし…同情とか、そんな感じなら。汐織が、傷付くし…失礼承知で言うと…先輩が、汐織を好きになるとは、思えなくて…』
確かに俺自身あの告白から汐織の存在を、強く感じ始めたけど…
その存在は、少し前から何となく気付いてはいたんだ。
告白される前までは、なぜ見られているのか…
疑問しか浮かばなくて、好きだと告白されて自分が、見られていた理由を知った。
で、告白されたと思ったら。
号泣された。
俺に告白して申し訳なくてと…
いつもは、じっと見てくるだけの瞳から大粒以上の涙を、ボロボロ溢させて…
慰めようと思ったら。
手を、叩かれた…
『あぁ…それは、地雷みたいなものすっね…』
『やっぱり』
『それでも、アイツは、大丈夫だとおもったからだから。三波先輩と一緒に居るわけだし…先輩も、そうなんじゃねぇーの? ドコを気に入ったとか…案外、その辺りにあったりして?w』
そうなのかも、知れない。
確かに手を叩かれた時は、何だコイツって…なった。
でも、ごめんなさいって号泣する汐織に何も出来ない自分が、妙に情けなくて…
振るえてる汐織を、何とかしたいって強く思った。
まぁ…潔癖症や対人恐怖症が、簡単には良くなったり。回復する訳じゃない。
取り敢えずこれ以上。怖がらせたくない。
守ってやらなきゃ…って、漠然と思った。
それが、好きの切っ掛けなんだろうか?
1,
僕から告白して、付き合って約2ヶ月。
告白当日は、恥ずかしさと大好きな三波先輩に困らせてしまった事への罪悪感で…
その場で、泣きじゃくてしまった。
多分。泣きじゃくったのは、対人恐怖症からの人に免疫がない分、起こった現象だと推察…
それで、泣き崩れてしまった僕を、助け起こそうとしてくれたのに…
潔癖症気味の僕は、いつもの感じで先輩の手を、おもいっきり叩いてしまった。
怒られても、仕方がないのに…
僕の言い訳じみた理由に先輩は、逆に謝ってくれた。
そこで、提案された。
取り敢えず。
付き合ってみること。
『えっ? だって…』
その人物を知りもしないのに見た目で、ごめんなさいは、失礼だと押し切られた。
『知らない事があるのは、今まで知る機会が、無かっただけで、これから。お互いの事を知っていけばいいかなぁ…って、それに最初から…無いなら初めから。こんな提案はしないよ』
先輩は、あっけらかんとして答えた。
『先輩は、僕を気持ち悪いって…思いませんか?』
三波先輩は、戸惑った風に考え込んだけど…
『…それは、男からの告白に対して? それとも、まったく知らない子からの告白だから? それか……』
必要以上にオドオドしてる?
とか、
目を合わせてくれない。
とか、かなりストレートな言われ方をされたけど…
『なんって憶測は、失礼だよね。だからかなぁ…』
三波先輩は、申し訳なさそうな表情を見せるけど、なんか…
いつもよりも、優しそうに見えるのは、なぜだろか?……
『ね。そんな堂々巡りな答え俺は、嫌だから。でも試しに付き合っていく過程で、このまま一緒に居ても大丈夫なら。付き合えばいい。仮にダメならば、距離を置いていけば、相手の気持ちも、知れるだろ?』
納得させてしまうには、十分な発言に僕は、思わず…
『はい…』と、逆に返事を返すと言う珍事が、起こった。
『だから。俺からの提案をまとめると…』
先輩からの提案は、こうだ。
待ち合わせをして、学校の登下校を一緒にする。
そして、メッセージの遣り取りを可能な範囲で、返す事……
『難しい?』
ブンブンと首を振った。
先輩からの提案は、嬉しかった。
でも、それだと僕寄りだから。
なんか、微妙で…
『あの…』
『なに?』
『僕は、頑張りたいです!』
えっ? と、先輩は、真顔で返事を返した。
1学年上の三波先輩。
誰がどう見ても、格好良くて…
単純に言えば、僕の一目惚れ。
優しくて、頭も良い。
皆からも、凄く慕われていて…
人気が、あって…
ただ問題が、あるとしたら。
僕が、対人恐怖症で潔癖症って所。
それを、知った上で先輩は、僕の無理にならない範囲で、この提案をしてくれた。
だって、よく考えれば…
付き合って居ると、言っても対人恐怖症が邪魔をして、まともに顔も見れないし。
話す言葉も、覚束ない。
先輩は、そんな僕に気を遣ってこまめにメッセージをくれる。
メッセージのやり取りだと素直になれる気がして、その遣り取りが大好きで、その提案してくれた先輩を益々、好きになれた。
そして…
先日、やっと本当に付き合える事になりました。
“ 俺は、正直に言って…汐織と手を繋いだりしたい。でも汐織が、無理だと思う事は、させたくない。したくない ”
たまに、見返してしまうメッセージの遣り取り。
「おっ…またニヤけてる?」
「…えっ?…」
「…スクショ撮って何度も、何度も見返してニヤついて、飽きねぇ~なw」
同じクラスで、
家がお隣さん同士で、
僕の3コ上の姉と、何やら付き合って居るような…
居ないような…
微妙な関係を、保っている幼馴染みの戸室 久貴は、ニッと笑い。
僕もつられて、笑ってしまった。
「そう言えば、姉さんが、今日は、家に居るって、伝えておいてってさぁ」
「分かった!」
と、気さくに気兼ね無く話せる唯一の親友でもある。
小さい頃から人の視線が、恐怖でしかない僕に姉と久貴は、理解してくれて、一緒に居てくれたから。とても心強い存在だ。
「じゃ…オレ帰るな…」
「うん」
「汐織は、三波先輩と帰るんだろ?」
「そうだよ。今日は、クラブで話し合いがあるとか…言ってて遅くなるから。教室に来てくれるって、だから。待ってるんだ」
「そっか、頑張れよ」
と、オレは、汐織の頭をポンポンと軽く撫でて、教室を後にする……
そこに…
じとぉ~~~っ。
と、湿り気と言うか、ジメジメとした視線を感じ視線の方に顔を向けた。
壁と言うか、廊下の端って言うか…
「…三波先輩? どうしたんすっか?」(勿論。小声)
放課後で、人の気配も少ない教室棟は、部室やクラブ棟に比べれば、かなり静かだ。
「汐織なら。先輩が来るのを教室で、待ってますけど?」
「…うん……」
汐織と違って、恋愛フィルターが、効かないオレから見ても、三波 道也先輩のカッコ良さは、伝わってくる。
まぁ…一目惚れしたとかで、告って取り敢えず仮に付き合う事になったって、話に最初は、ただただ驚いた。
対人恐怖症と、潔癖症に苦しんでいる汐織に、恋人候補だぁ?……と。
しかも、告った相手が、校内1の人気を誇る三波 道也だ。
でも、さっきの…じとぉ~~~っとした視線といい。
そんな隅っこで…
「何してんすっか?…」(勿論。小声)
陰湿とまではいかないが、汐織が気になるのか、2年の教室から1年の教室に来ては、微妙な位置から汐織を、見張って…じゃない。
見守っている。(と、信じたい)
第一に突然、汐織が、同性を好きになるとは、幼馴染みのオレや実の姉ちゃんも、思っても見なかったんだ…
それに…この度、めでたく本当に付き合うようになるとか…
「先輩。教室に入ったら? 汐織のヤツ。先輩待ってますよ」
「うん…」
今のこの2人の仲が、どうなるのか…
長く続くのか、早々と別れるようになるのか…
知らないけど、興味はある。
「…じゃ…オレ帰るんで!」
「あの…さぁ…ちょっといい?」
何でオレが、三波先輩に呼び出されんだよ?
人の気配が無いと言えば、嘘になるが、それでも人はまばらな体育館とグラウンドが、隣合っている正門から昇降口に続く通路にオレと三波先輩は、移動した。
「で、何っすか?」
「その…汐織との事…」
それしか、ねぇーわな。
オレは、先輩からしたらアイツの近くにいるモブだろうから。
「そう言えば、毎日の登下校一緒なんでしょ? アイツ。先輩と一緒だって、嬉しそうに自慢してくるから」
メッセージのスクショは、黙っておこう…
「……………」
って、あれ?
「あっ! もしかして、来週行くって、約束中の初デート? アイツめちゃくちゃ楽しみにしてますよ! 何せ付き合ってから。初めてのデートですもんね」
「…………」
えっ~っ、何の沈黙だよ。
「あの…先輩?」
神妙な顔して、こえーよ。
「うん。一緒に居ると楽しいよ。随分と慣れてきて、向かい合って話せるようにも、なったし…」
オレの知ってる限りで言うなら今は、だいぶ改善されたけど、汐織の人見知りと言うか対人恐怖症は、少し前まで一人では外も、歩けない程のレベルだからな…
産まれた時から一緒に居るオレだから。家族と同レベルなんだろうけど…
「それは、分かってる。でも…なんって言うか…あんな風に軽く頭を、ポンポンなんって…俺にはまだ無理だろうから…羨ましいなぁ…って」
それは、いわゆるオレへの嫉妬ですか?
とは、口が裂けても言えねぇなぁ~っ…
「先輩は、頭ポンポンしたこと無くても、仮に付き合って2ヶ月なら。何かしらは……」
先輩ほ、首を振った。
「そこまで、近い距離じゃないし…」
えっと…
なんか……
「すみません…」
スゲーっ、同情する。
どこまで、2人が打ち解けてるたか、微妙だけど…
毎日顔合わせて、一緒に学校来て、たまに昼も一緒に食って、帰りも一緒に帰って……
それなりに距離とか縮まねぇーものか?
あっ! 汐織が、潔癖症だからか? だから触れたくても、触れられないのか!
まぁ…先輩が、汐織と…今後? どうなりたいとか、正直に言えばオレは、部外者だし……
「先輩は、その…アイツとイチャイチャしたいとか、そんな願望とか有るんすか?」
俺は、そのまま言葉にしてみた。
満更でもない様で、それでいて酷く慌てて、顔を隠し咳払いをして見せた。
健全って言えば、健全な反応だと、他人事の様にオレは思う。
「…俺…実を言うと、前に付き合ってた子に束縛とか…執着し過ぎたらしくて? それが、イヤって言われて…別れたんだ」
ハッとなる顔を、先輩に向けると、先輩は、バツが悪そうに顔を隠す。
そりゃ…2学年の教室から下の階に時間があれば、様子を見に来るくらいだから。
少しそう言うタイプかなぁ~っ…ぐらいには、思っていたけど…
「マジ…で?」
「あぁ…昔から。好きなモノに対しての執着心が、凄いらしくて…小学生の頃から。気に入ったモノを肌に離さずって感じで…親は、苦労したって…」
「…で、今は… (今となっては) 元カノに執着してしまっていたと?」
頭を掻きむしる様にして、その場にしゃがみ込む。
「なんか…気付かないうちに…元カノにしてたっぽいんだ…」
爽やかな見た目からは、想像も付かなそうな一面だ。
よりによって…
友よ。
何で、こんなヤバそうなヤツに、惚れるかなぁ…
あぁ…対人恐怖症で、人に免疫無さすぎなのと、顔に惚れて全てを好きなった感じかぁ?
恋してる人間の脳ミソって、本当おめでたい構造をしてるぜ…
「で…オレに相談って汐織と手を繋ぐには、的な?」
「まぁ…何って言うか、許される範囲?」
「それは…オレに聞かれても正直に言って、分かんないっすよ。オレの場合は…」
産まれた日も似通ってるし。汐織の姉ちゃんが、よく面倒みてくれて…
遊んでくれて、それこそ3人で部屋に雑魚寝やら乱雑に、扱われた事も多いし。
「オレが、アイツにした頭ポンポンは、お姉さんもやるけど…逆に両親が、したらブチギレるし。ふざけて指先でツンツンってのは、お姉さんしか許されてないし…因みにオレは、肩も組んだことねぇーですよ。ご心配の手も、繋いだ事はないっすから」
しかも、そうなった理由は転んで泣きじゃくって近くに汐織の姉ちゃんは、居ないし。
誰も、居ない状況で帽子越しに頭ポンポンしたのが、最初だっけ?
当時は、マジに焦った…
「えっ…?! それが、最初?」
「まぁ…幼稚園のころかなぁ?…多分」
そこで、目を点にされて見上げられても…
あの時は、アレが一番無難だったんだ。
「ハードル…高くない?…」
先輩の声が、多少振るえて聞こえる。
怖いよな。
「オレも、同じでした。だから。本人にさりげなくとか? 聞いてみりゃ良いんすっよ。その都度…」
「変に思われない?」
「アイツは、自分が潔癖症で、対人恐怖症だって分かってるし。それを克服しようと、努力してるんで…それは、オレよりも先輩の方が、知ってるでしょ?」
コクッと、三波先輩は頷いた。
「あのさぁ…戸室くんも、その…一方的に悩んだりしてるの? えっと…汐織から。色々と聞くけど…」
「…一方的に悩んだりするのは、仕方がなくないっすか? 付き合ってるんだし。それまで知らなくて当たり前だった。オレは、幼馴染みでも、知らない事だらけで…たまにヘコミます…だから。変わんないと思います」
また先輩は、頷いた。
「いや…年が、近いようで…やっぱ…年上だし」
からかわれてんのかって、思う時の方が多い。
年が、3つ上。
恋人ってよりは、弟扱いの延長で…向こうからの告白だから。保ってるようなもので…
でもオレも、ちゃんと好きだし。そう言う感覚? っての? そりゃ…汐織も、大事だけど…それは、あくまで親友であって、幼馴染みとしての心配。
「だから…先輩は、オレの事なんって気にしなくていいっすよ。アイツを過保護にって思うのは、オレもアイツの姉ちゃんも、癖みたいなもんだし」
過保護。
なんだろうか?
しっくりくるものが、ある。
「それに、アイツは先輩が、好きすぎるぐらい。大好きなんだから」
「…………」
「それに見守りたいんでしょ? なら三波先輩も、甘々な過保護になれば良いじゃねぇ?」
甘々?!
「それじゃ」 と、戸室くんは、その場から立ち去ろうと、正門の方に歩いていきなからスマホで、メッセージを確認しては、笑顔になっていた。
おそらく相手は、汐織のお姉さんなんど思う。
甘々な過保護?
納得しかける自分が、居るから不思議だった。
2,
先輩に…
触って欲しいなんって言ったら。
変な誤解を受けそうだから。
言わないでおくとして…
手…なら繋げるかなぁ?
でも、自分から言っておいて、やっぱりダメです!
って、告白した時みたいに、先輩の手を僕が、叩いたりしたら…
いや。待てよ…
叩いたってことは、僕から先輩に触った事になる?
でも、触った感覚なんってない。
先輩は、何も言わなかったけど…
絶対にイヤな思いをしたはず。
それに先輩が、僕に触れたいと思っているのか怪しい。
でも、普通に付き合っていたら…
手とか繋いだり。腕を組んで歩いたりするものなのかなぁ?
いつから繋いだりするものだよね?
僕にそれが、できるのかなぁ?
姉さん達が、してるみたいに…つまり。
イチャイチャ…?
距離が、近い感じに近付けるとか?
それは、無理ってよりも、恥ずかしい。
先輩に対して、自分の想いを告げたら終わりじゃない事に今更、気が付いた。
「汐織…居る?」
僕を呼ぶ声。
優しくて低い声。
僕が、好きな三波先輩だ。
ホッとする。
ゆっくりな足取り。
緊張するような…
ほぐされるような雰囲気…
「汐織? どうかした?」
俺は、不審に思い。急ぎ足で汐織の元に歩み寄った。
いつもなら物静に笑って、顔を上げ俺の方を、見てくれるのに…
今日は、少し肩を落とすように席に座り下を向いている。
これが、親友なら軽く肩をポンってしたりできるのに…
もどかしい俺は、出掛けた手を強く握り締めた。
こう言う時、どうするのか一番正解に近いのか…
寂しそうに身体を丸めている汐織を、俺は…
「先輩…ごめんなさい」
突然の謝罪。
「どうして、謝るの?」
俺よりも、強く握り締めて赤くなった手の甲に…
俺は、断りもなくすくい上げる事が出来ない。
それが、もどかしい。
「あの…先輩…」
「なに?」
汐織の座っている机に俺は、腕を乗せる様に屈んで見せた。
先輩は、イヤになったりしないのかなぁ?
面倒くさいって、思わないのかなぁ…
三波先輩に触れたい気持ちは、あるけど…
それを拒否するかも、知れないって。
自分が、自分にしがみついている。
「ねぇ…汐織。また提案なんだけど…いいかなぁ?」
「えっ…」
「俺は、正直に言って…汐織と手を繋いだりしたい。でも汐織が、無理だと思う事は、させたくない。したくない…」
僕は、付き合うってなった時にスマホ届いたメッセージを、思い出し頷いた。
「折角、好きで側に居るのに…無理させたら…大切に出来なくなるよ」
「でも、それだと先輩が、損をしませんか?」
「損?」
「だって先輩は、僕と違って…普通でしょ? 普通に付き合っていきたいでしょ…」
普通?
「僕…頑張りたい。先輩に触れてもらえるように…なりたい…」
そうやって、真っ赤な顔して涙目で、そう言うこと言うの反則だろ?
優しく振る舞おうとしてるのに、気持ちが掻き乱される。
本当に無自覚って、意味を知らな過ぎる…
「先輩?」
これが、今までの俺だったら。
絶対に抱き締めてるよなぁ…
えっ…と……
取り敢えず。
落ち着こうと思う。
「…あの…」
ここで、自分の想いを先走りさせ押し通したら。間違いなく俺は、汐織から嫌われる…
そんな事になったら。
自分を、許せなくなる。
一旦落ち着こう…
「先輩?」
僕の発言に対して、急に三波先輩が、黙り込んでしまった。
なんか失礼なことを言ったのかなぁ?
キョロキョロするように先輩は、後ろを向いた。
「あの…先輩…」
この状況で汐織と2人っきりって、何の荒行だよ?
と、思えるのは、冷静だって証拠だ。
本心では、試されてるのかって、内心穏やかでは居られない。
平常心で、この場を乗り切ろうって事が、ここまでキツイとは、思わなかった。
「先輩ってば!」
そんな言葉に続くように俺は、制服の上着を、クイッと引っ張られた。
「えっ…」
「あっ、あの…掴んで、ごめんなさい。あの…」
えっと…この状況…
ちょっと、待てよ。
まだ…裾を、引っ張ってる。
無理してない?
気持ち悪くなったりしてないのか?
いつも、指先を引っ込めて人の前に立つぐらいなのに…
何かに触れようもするなんって、勇気がいったはずじゃ…
本当は、触れたくないはずなのに…
そうまでして、俺を引き留めようとしたとか、無理をさせ済まない。
守ってやらなきゃと、思わずにはいられなかった。
「あのさぁ」
「はい…」
未だに俺の制服を、掴んだままの汐織。
「このままの距離でって…口先だけでなら。言えるよな。簡単に…」
「えっと…」
「ホントのこと言えば、もっと汐織の近くに居たいよ。でも、それじゃ傷付いてしまうかもしれない。本音を言えば、戸室くんみたいになりたい」
付き合うって、なった時の返事を、返されたときよりも、ドキッとなる。
「俺なりに近くに行けるようになりたいそれは、変わらない。それに…」
汐織が、頑張るって言ってくれたことが嬉しいから。
「俺は、今以上に信頼されたいって思ったし。一緒に頑張りたい」
振り替えると汐織は、俺の制服の裾を握ったまま泣きじゃくっている。
「好きなって…良かった…」
俺も、好きになってくれたのが汐織で、良かったと言いたいけど、今言ったら。確実に号泣して…
あの時みたいに泣き止まなさそうだから。
「泣き止むまで、ここに居るから。そしたら。今日も一緒に帰ろう」
汐織は、大きく頷いた。
「先輩ありがとう」
「うん」
少しづつ…
本のちょっとでもいい。
一緒に、歩み寄れたら。
それ以上、嬉しいことはないよ。
終わり。
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