東京 5年目の職場

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 僕は医師、壱は受付の医療事務員で、僕は患者さんの外部委託した血液検査の結果等、様々な残務が残って壱より帰宅時間が遅くなりがちだった。  僕は研修医終了後、自称小説家で自由人だったが、5年前から勤め出した。  会川壱は元ピアニストで今は医療事務員だ。  一時は、離れたが今は一緒に僕の実家に住んでいる。  僕の両親は亡くなった祖父の家にいる。  祖父の訪問診療は僕の担当だった。老いを目の前で追っている自分に苦しかったが、誰しもが通る道だ。  手を引ける人間も必要だと、自分に言い聞かせ難しい事はわからないが、看取った。     亡くなる数年前、祖父の訪問診療先に就職が決まったあたりに、祖父がくれた1枚の写真がある。  幼い頃の、僕と壱が写っていた。  亡くなった後、祖父からだと壱に見せたら、 壱の瞳から涙が出ていた。何も言わずに暫く泣いていた。
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