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11、キヨのお願い
「ミチオは本当に、俺に甘すぎるよ……」
「え?」
不意にキヨが僕の肩に額をトン、と乗せた。キヨの前髪――茶色に染められた、一本一本が細くてサラサラしている綺麗な髪――が頬を掠めて少しくすぐったい。それと、珍しく僕に甘えてるようなキヨの態度も。
「ねぇ、ミチオ……」
「なあに、キヨ」
「エッチなDVD見ようよ」
「……」
ちょっと。
「もうっ! キヨってば今このタイミングでそんなこと言うー!?」
「だって、ミチオが谷山さんをオカズにオナニーしてるって思ったらなんか嫌なんだよ!」
「言葉にしないでよ! ていうか、なんでキヨが嫌なんだよ? あ、ほんとはキヨも谷山さんのことが好きだったんじゃないの!? 僕に遠慮しなくてもいいよ!?」
「そんなことあるわけないだろ! 俺が好きなのはミチオの方なんだから!!」
「それはどうもありがとう! でもそれとこれとは別でしょ!? 僕はそんなもの見たくな……」
い、と続けて言うはずだった僕の口から言葉が消えてしまった。だって、キヨが物凄く悲しそうな顔をしていたから。
「おねがい、ミチオ」
キヨは顔の下あたりで両手を合わせて小首を傾げるという、究極に可愛い『お願いポーズ』を僕にぶちかました。
それに加えて、イケボすぎる甘い声で囁くという――僕がこれにかなり弱いことを知っていて、ずるすぎる。いや、僕がこれに弱いのもどうかと思うけど。
「うぅ……」
ああ、僕は本当に………
「ね?」
キヨの『お願い』に、弱い。
「わ、分かったよ……でもこれっきりだから、ね?」
「うん!」
僕が承諾した時の、キヨの嬉しそうな顔ったら! そんな嬉しそうな顔をしてくれるなら、苦手なDVDだって観てあげようと……毎回は思わないけど。
「ほんとにほんとに一回だけだよ?」
「分かってる!……それにもう、二度と見せないから安心してよ」
「え?」
今、キヨの声のトーンが妙に低かったような……気のせいかな?
「実はもうセットされてます」
「準備良すぎでしょ……」
いつセットしたんだろう? 僕がトイレに行ってる間とかかな。
「どうしてもこれをミチオと一緒に見たかったんだもん。じゃあ、再生しまーす」
「うぅ……」
もん、とかいう可愛い言葉尻もキヨならいくらでも許せるって感じだ。他の男子が言ったら吐きそうだけど。
そして僕の生まれて初めての、いかがわしいDVD鑑賞会は始まった。
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