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3、過保護
うちの高校のサッカー部は部員が50名程いて、レギュラーは3年生がほとんどだけど、その中でもキヨは2年なのに先輩たちにも一目置かれる存在だ。
きっと次期キャプテンはキヨだろうなと僕達2年は全員思っているし、3年生にも1年生にも文句を言う人はいないと思う。
ちなみに僕はサッカーが好きでも得意でもない。うちの高校は1年のみ部活動が必須だから仕方なく――キヨもいることだし――入部したのだった。今でも続けているのは惰性でしかない。
「ミチオ、柔軟やろう」
「うん。でもキヨ、たまには他の人とやったら? 僕とじゃ体格差も身長差もあるからやりにくいでしょう?」
「でもそしたら、ミチオは誰とやるの」
「え……」
誰とって……特定の相手は別にいない、けど。
「俺はミチオがいいんだ。ちょっと腕や足の長さが違うくらい、どうってことないよ」
「ひどい……」
「あははっ、冗談冗談!」
冗談っていうか……ふつうに事実だ。
僕はいまだに中学生に間違われるくらいチビで童顔だけど、キヨはその逆。『ふけてる』んじゃなくて、『大人っぽい』。やることなすこと全部スマートだし、本当に同い年なのかなってたまに思うことがある。
「ていうか、俺以外の奴にミチオの身体に触らせるわけないだろ」
「え?」
「さ、柔軟しよ。後ろ向いて」
「う、うん」
またキヨが変なこと言ってる……。
キヨは僕に優しいけど、たまにこういうわけのわからないことを言う癖があるから反応に困るんだ。意味はいちいち深く考えないけど。
「ミチオの身体はやわらかいね」
キヨは優しく笑ってるけど、その日の柔軟はなんだかいつもより力が篭っている気がした。
「ミチオー、お弁当食べよう」
「うん」
昼休み、今日もキヨはお弁当持参で僕のクラスへやって来た。
僕とキヨは、小学校5、6年から中学校3年間、更に高校1年までずっと同じクラスだった。中1と高1の時は偶然だろうけど、それ以外は僕がクラスで独りぼっちにならないように先生が配慮してくれたんだと思う。
僕にはキヨ以外に仲のいい友人はいないから。気を使って話しかけてくれるクラスメイトは数人いるけども……。
「小林と水沢って本当に仲良しだよな。小学校からのダチなんだっけ? クラス離れてんのに水沢はしょっちゅうウチのクラスに来るし」
「愛されてるよなー、小林」
「なー、うらやま」
「……」
だからこんなことをクラスメイトの男子からしょっちゅう言われる。からかわれてるのかな? そのたびに僕はどんな顔をしたらいいのか分からなくて……結局、苦笑いするしかないんだけど。
お弁当を食べながら、キヨが言う。
「俺、ミチオのクラスメイトに過保護だって思われてるのかな?」
その発言に、少し驚いた。
「キヨ、過保護だって自覚あるの?」
「なんかむかつくけど……そりゃあ、一応ね。でも仕方ないか、本当のことだし」
どうして。
「どうしてキヨは、僕に対してそんなに過保護なの?」
なんだか年上の人と話してるみたいだな、と思った。僕とキヨは同じ歳なのに。
するとキヨは綺麗なアーモンドアイ――まつ毛も人形のように長い――を見開いて、驚いたような顔で僕を見た。
「何それ。ミチオこそ自覚ないの?」
「なにが?」
「俺はミチオのことが大事だから過保護になるんだよ。知らなかったの?」
「えっ……?」
僕のことが、大事だから?
「そっかミチオ、知らなかったのか」
「あの、キヨ……」
「うん?」
僕だって、キヨのこと大事に思ってるよ。
そう言おうと思ったのに。
「えっと……なんでもない」
何故か僕は、その一言が言えなかった。
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