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8、女の子の話
「それで……誰? 同じ高校に行った人?」
「違うよ。今は東谷高校にいるから」
「中3のクラスメイトで東高に行った女子か……もしかして谷山さん?」
「……当たり」
どうしてキヨは分かったんだろう。中3の時のクラスメイトの女子で東山高校を受験した子は、あと数名はいたはずなのに。もしかしてクラスメイト全員の志望校、覚えてるとか?
……キヨならありえるかもしれない。
「へえ、ミチオってああいう騒がしくてキツい感じの子は苦手だと思ってた。俺もまだまだミチオのことが分かってないなぁ」
「え? 谷山さんはふつうに優しい子だったよ?」
僕が何回か教室で彼女と話していたところを、キヨも見ていたはずだ。何度か途中でキヨも話に入ってきて、3人で話したりもしたし。
あ、だから谷山さんだって分かったのかな。
「優しい子、ね。それで? 今も好きなの?」
「いや、卒業してもう2年も経つし……」
ただ思い出に浸っているだけだ。今のところ、あの子より好きだなぁって思う女子は僕の前に現れない。
でも、どこかで偶然会えたら嬉しいなと思っている。どこかで……なんて非現実的だし、そこからどうにかなるのを望んでいるわけじゃないけど、以前よりはうまく話せるようになったと思うから、中学の時優しくしてくれたお礼が言いたい。
アレのオカズにしてるくらいだから下心がゼロってわけでもないけど、そんな贅沢というか、高望みはしない。なんせ僕だし。
「………」
「キヨ……?」
さっきまで饒舌だったキヨが黙りこくっている。肩を落として、手は軽く組み合わせて、目線は足元に向いていた。
どうしたんだろう、僕が黙ってたことがそんなにショックだったのかな。でも、今さらどうすることもできないし。
それに聞かれてばっかりもなんだから、空気を変えようと僕の方からも質問してみた。
「キヨの方こそどうなの? 今彼女とかさ、いるんじゃないの?」
でもキヨは、僕の質問には答えなかった。
「ミチオは、俺以外に好きになれる奴がいたんだね……」
「え?」
……今、何て?
キヨの言葉を聞き返そうとしたけれど、そんな余裕は与えないとばかりに、いきなり僕の世界はぐるりと反転した。
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