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9、裏切り
「え……っ、キヨ、なに!? どうしたの!?」
僕はキヨにベッドに押し倒されていた。今までにない強い力で、手首を掴まれて。
こんな、暴力ではないけどそれに近いような行為は今までにされたことがなくて、果てしなく意味が分からなくて僕は混乱した。
だってキヨはいつも僕には優しくて、甘くて、過保護で、……
「俺以外の奴を好きになったなんて……」
「え?」
「ゆるせないな……ゆるしがたい裏切り行為だよ、ミチオ」
「キヨ、何言ってるの!?」
俺以外の奴って?
裏切り行為ってなんのこと?
ギリ、と掴まれた手首を更に強く握り込まれて、爪が食い込んで痛みが走った。
「痛っ! いたいよ、キヨ!」
「俺の方が痛いよ。……ミチオは、本当に何も分かっていなかったんだね」
「何が? なんのこと?」
「俺が今までミチオに過保護だった理由も分かっていなかったしね……」
「僕だって、キヨのことは大事な友達だって思ってるよ!」
あの時僕がそう言わなかったから? キヨ、今日はそのことでずっと怒っていたの?
だからAVを見ようとか、オカズは何だとか意地悪なことを言いだしたの?
「キヨは僕にとって、昔からかけがえのない大事な親友だよ……っ!」
だって、だってなんか、あの時は答えたくなかったんだ
なんだかキヨの目がこわくて、
あの時のキヨの目は――
「……生憎だけど、俺は最初からお前を友達だなんて思ってないよ、ミチオ」
友達を見る目じゃなかったから。
「え……?」
友達だと思ってない、だなんて……。
他でもないキヨの口からそんな言葉が出るなんて、信じられない。
だってそんなの、天地がひっくり返ったってありえないと思ってた。……いや、それはさすがに言い過ぎかもしれないけど。
「う、そだ……キヨ、うそだよね?」
だってそれくらい、僕はキヨのことを大事な友達だと思っていた。キヨも僕のこと、そう思ってくれてるって、今まで疑ったことすらなくて……ああ、なんだか涙が出そうだ。
ねえキヨ、嘘だって言ってよ。
さっきのこわい目も全部、僕の見間違いだって言ってほしい。
「……嘘だよ」
「へっ?」
……うそ?
「ごめんミチオ。ミチオが俺に隠し事をしてたなんてすっごくショックだったから、つい意地悪しちゃったよ」
ゆるしてくれる? と可愛く言いながら、キヨは僕の肩を掴んで身体を起こしてくれた。
僕は肩から脱力したような情けない姿勢でへたれこみ、情けない声を出した。
「うそ、なの……?」
「当たり前だろ! まさかミチオ、本気にしたの?」
「だって、だってキヨ……」
嘘だと思いたかったけど……
嘘をついてるようには見えなかった。
「ごめん、許して?」
「ぼ、僕も、隠し事しててごめん……」
キヨは本当は僕のこと、友達とは思ってないんじゃないだろうか。
そんなこと今まで考えたことも無かったのに、一度そう思ったら思い当たる節は幾つもあった。
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