たぶんそれ、魔法です

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 ふたつ並んだカレー皿にはシチューが入っている。私のパートナーはシチューをご飯で食べるというのだ。それ自体は珍しいことではないけれど、シチューとご飯を半々によそるなんて。 「これって地域柄?」 「親の代からバリバリの東京育ちですが」  だよね、と首をかしげる。隠したいときに数秒の沈黙。これは私の悪い癖。はっとしたときには彼の瞳が輝いていた。 「なあに、リンちゃん。元カレ?」 「あー……」  どうしてそんなワクワクした目つきができるのだろう。シチューの入ったカレー皿を前に頬杖をつき「うん」という返事を待っている彼は変わっている。 普通は昔の恋人の話を聞きたくないと思うはずだけど、ぽろっとこぼす度に「聞かせて」とせがむのだ。今もそれ。こうなると白状するまで食べさせてはくれないだろう。 「ふう。さて、昔々、私が風呂無しアパートに住んでた頃の話なんだけど――」  食べながらねと前置きをしてから、私は読み聞かせするよう話し始めた。
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