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「指輪あ?」
番頭が声を裏返す。
「お願いします!」
番頭は酒と女とデュエットが好きそうな、口元のゆるい白髪混じりのおやじだ。行きつけの銭湯でうっかり指輪をなくしてしまった。こんなおやじに頼みたくないけれど、致し方ない。
「もう湯を抜いてるんだよ」
大切な訳じゃないけど、初めて給料で買ったアクセサリーだったから思い入れがある。私はちょっとで良いから探させてくれと頭を下げていた。ゆるめのトップスがずり下がり、手で直す。
「うーん……」
悩むふりしてどこみてんだおやじめ。悪かったな、男湯に貼ってあるビールのポスターみたいなグラマー女じゃなくて。
すると後ろから「どうしました?」と若い声がした。顔をあげるとランニングシャツにジャージの裾を捲った若い男の人が立っていた。
「いやあ指輪をなくしたっていうんだよ」
見てないだろう、番頭の問いにお兄さんは頷く。がっくりと肩を落とす私があんまりみすぼらしかったのか、お兄さんが番頭に掛け合ってくれて中に入って探すことができた。
許された時間をすべて使っても指輪は見つからなかった。帰り際、番頭は意味もなくニヤけていた。
「またどうぞ」
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