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今年もまた卒業シーズン到来。
(九州南部のこの地域では、例年3月中に桜の花びらは散り始める。)
小学六年生のみんなが体育館に集合し、言わずと知れた「旅立ちの日に」という歌の練習をしている。その初々しくも美しいハーモニーが漏れ聴こえる度に、「僕も一緒に歌ってみたいな」何度そう思ったことか知れない。
いつも焦がれていた。
それは毎年抱く感情ではあったが、いまだに慣れることはない。
毎年毎年新しい子供たちが巣立っていく。
それと呼応するかのように、この僕の腕に新たに咲き誇った桜たちも、その花びらを散らしてゆく。
一見すると毎年同じことを繰り返してるように見えるかもしれない。
でもそれはきっと節穴と化した大人レンズを通して見た表面的世界。
僕は全くそういうわけではないことを知っている。
身を持って知っている。
身を呈して知っている。
この身から幾千もの花びらがその新しい命を賭して散っていくのだから。
卒業し巣立っていく子供たち……
卒業を祝福するように舞い散る僕の欠片たち……
ーー 卒業式当日 ーー
「旅立ちの日に」の完成されたハーモニーが校舎中にこだまする。
その響きがあまりにも美しすぎたから、
感動の嵐がより一層僕の花びらを舞い散らせる。
あぁ・・・僕も歌に参加したいな。
儚く花びらを散らせるだけなんてやっぱり虚しいよ。これだから桜の季節は嫌いなんだ。
青葉茂る夏や赤く染まる秋、そして丸裸の寒い冬……、巡り巡る季節の中で一番華々しく咲き誇る春、それは僕の季節だったはずなのに。歌えない分余計に虚しくなってしまう。
そんな感傷に浸っていると、一人の少年が僕の足下に立ち、こちらを見上げて桜吹雪を眺めいてる。卒業式はもう終わったようだった。そして、こう呟いたんだ。
「君はまるで、歌うように散っているね。君もさっき僕らと一緒に『旅立ちの日に』を歌ってくれていたのかな」
僕の姿を僕のありたい存在として少年は見ていてくれたんだ。
本当にありがとう。
そして卒業おめでとう。
その時僕はより一層桜の花びらを散らせて
少年の気持ちに応えようとした。
【完】
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