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殿山のあれは一体なんだったのよ! 昼休みが終わっても詩音の動悸は治らなかったし、思い出しただけで頬は真っ赤に染まった。
今までは同じ中学の友人の一人としか思っていなかったのに、今は彼の言葉が頭から離れなくなっている。
私に嘘をついて騙したような奴よーーでもその理由を聞けば、思いやりにあふれたものだった。
放課後になり、陸上部の部室で着替えを済ませた詩音は、他の部員たちと共にいつものように校庭へと出ていく。
しかしふと気になって海斗の教室の方に視線を移すと、驚いたことに窓から外を見ていた海斗と目が合ったのだ。ギョッとした詩音に対し、彼は表情を輝かせると大きく手を振った。
「詩音! ケーキ美味しかった! ありがとう!」
「べ、別にあんたのために作ったわけじゃないし!」
「でも、美味しかった! また今度作ってよ! 今度は俺のために!」
本当に馬鹿みたい……詩音は返す言葉が見つからずに唇を噛んで俯いたが、そのやり取りを見ていた友人たちはニマニマしている。
「殿山って詩音のことが好きだったんだねぇ」
「それに失恋したはずの詩音が、全然そのことを考えてないもんね」
そう言われてハッとした。確かにあんなに悲しかったはずなのに、今は佐藤さんではなく殿山のことしか考えていなかった。
「本当に詩音の悲しみを飲み込んじゃったのかもね」
殿山に嘘をつかれたことはショックだったけど、彼の気持ちを知って、失恋の傷跡が思ったよりも浅いことに気付いた。
だけど失恋の後にすぐに恋が始まる? しかも私を騙した相手と? そんなのってちょっと癪だわ。
詩音は改めて海斗を見るなり、わざと顔を背ける。彼の反応見なくたって想像できた。
とりあえずあんなにケーキを作る練習したんだもの。返事はショートケーキをホールで食べてもらうまでお預けなんだから。
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