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先ほど外を勢い良く走っていた風岡詩音は、目を細めて教室の中を隈なく見渡していく。
「……殿山は?」
「えっ、あっ、と、トイレに行った!」
ドスの聞いた低い声で尋ねられた淳太は、上ずった声でそう答えたが、つい条件反射で掃除用具のロッカーをチラ見してしまう。それに気付いた詩音は無表情のまま掃除用具のロッカーの方へ向き直ると、勢いよく扉を開いた。
「おや、なんでこんな所に隠れてるんだろうね。殿山」
詩音に背を向けるように硬直しているため、表情まではわからなかった。
「か、かくれんぼ?」
「……誰が鬼なのかしら?」
「……すみません、かくれんぼじゃなくて隠れてただけです」
「あら、じゃあ殿山は一体どうして隠れているの?」
小刻みに震える背中からは海斗の恐怖心が滲み出ている。
「殿山」
ダメ押しの一言が海斗の胸に突き刺さると、彼はゆっくりと詩音の方に向き直り、ロッカーの中から頭を下げた。
その様子を冷ややかに見つめていた詩音は腕を組むと、淳太の机にどかっと腰を下ろした。
「よくも騙してくれたわね。言い訳があるなら聞こうじゃない」
クラス中の視線が二人に注がれる、教室のドアには様子を聞きつけた別のクラスの生徒たちが集まり始めていた。
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