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 詩音の手には紙袋が握られていた。ただ走って振り回したのか、かなりヨレヨレになっている。 「あんた私に言ったよね。佐藤さんはひな祭りが誕生日で、好きなものはショートケーキだって」  詩音の語気が強く感じられるのは、きっと涙を堪えているからだろう。海斗は罪悪感を感じる。 「でも佐藤さんに聞いたら、誕生日は七夕だって言うじゃない。しかも好きなものはガトーショコラで、ショートケーキはむしろ苦手だって言ってた。殿山は私に嘘をついたわけ?」 「そ、そうです……」  海斗が認めると、詩音の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちていく。その様子を見ていた女子たちが、慌てて彼女のそばに寄って肩を抱くと、険しい形相で海斗を睨みつけた。 「なんでそんな嘘ついたのよ! 私本気で佐藤さんのことが好きだったんだよ……ずっと、何回もショートケーキを作る練習したし、告白の言葉だっていっぱい考えたの! 殿山のことを信じていたから……だから……」  そう。俺は詩音に嘘を教えた。佐藤さんの誕生日も、好きな食べ物も。好きな人が苦しむ姿を見たくなくてついた嘘なのに、今目の前の彼女を泣かせているのは自分だなんて……そんなことがあっていいわけがないだろう! 俺までしみったれてる場合じゃないぞ!  海斗は意を決して顔を上げると、詩音をじっと見つめた。  
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