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『ねえねえ、優ちゃん。今日部活ないんでしょ? 一緒に帰ろうよ(*^^*)』
『今、昇降口だよ』
『すぐ行くからお願い待ってて(>人<;)』
このメールのやり取りから既に三十分近く経とうとしている。どうせ友達と話でもしていて、私を待たせていることなんか忘れているのだろう。最後に桜子から来た『ありがと。優ちゃん大好き』のメールを眺める。"大好き"の後には真っ赤なハートの絵文字が三つ。絵文字や顔文字が多用される桜子のメールは見ているだけで胃もたれがする。
携帯を折りたたみ鞄に突っ込む。出入口の側に立ちながら何人、人を見送っただろう。イヤホンから流れる曲はいつも聞いているわりに覚えられない。
「佐倉? 何してんの」
音楽に遮られながらも聞き覚えのある声がした。足元に落ちていた視線を上げると、去年同じクラスだった杉野がいた。両耳からイヤホンを外しながら答える。
「桜子待ち」
「……あれ、古賀まだ教室にいたぜ? 工藤達と盛り上がってた」
「やっぱり」
深い溜息を一つ。工藤が男なのか女なのかは分からないけれど、予想は的中していたみたいだ。
「てか、桜子と同じクラス?」
「おー。やっぱり目立つよな、古賀。あの感じだとまだかかると思うけど」
「そのうち来るだろうし、もう少し待ってみるよ」
「さすが騎士だ」
無邪気に寄こされた言葉に、イヤホンを外さなければ良かったと後悔した。華奢で小柄で儚げな雰囲気の桜子はお姫様に、その隣にいる長身の私は騎士によく例えられる。それを不快に思っていることをきっと周りは気づいていない。杉野のそれも褒め言葉のつもりだったのだと思う。全然嬉しくないけど。
本音を隠しながら適当に一言、二言交わすと、杉野は去っていった。私は杉野の坊主頭を見つめながら、外していたイヤホンを両耳に押し込む。それから、パーカーのポケットに入れていた音楽プレイヤーの音量を一気に上げた。好きでもないロックを聞き続けている理由はただ一つ。お姫様だとか騎士だとか、そういう雑音が鬱陶しいからだ。
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