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 可愛いものは桜子のもの。綺麗なものは桜子のもの。昔からずっとそうだった。「桜は桜子だし、優ちゃんは佐倉だから、同じ"さくら"でお揃いだね」なんて笑いながら、可愛いものも綺麗なものも譲ってくれたことなんかなかった。それでも文句の一つも出なかったのは、フリルのついたスカートも、魔法少女のステッキも、ピンクのランドセルも、ラインストーンを散りばめた携帯電話も、ラメのついた桜色のシュシュも、桜子によく似合っていたからだ。それらは全部、桜子のために存在しているみたいで、太刀打ちできるはずもなかった。  学校を出て帰路を歩く間も桜子は色々な話をしていたけど、ほとんど適当に相槌を打つだけだった。ああ、(みどり)達と一緒に遊びに行けば良かった。断らなければ良かった。昼休みの自分を恨んでいる私の隣で桜子は延々と一人で喋り続けている。 「ねえ、優ちゃんは、どこ受験するか決めた?」 「……まだ」 「え、そうなの?」  桜子は「大丈夫?」と心配そうな顔をしたけど、曖昧に頷きながら「ちょっと、まだ悩み中」と濁しておいた。 「決めたら桜に一番に教えてね」  桜子は「約束だよ?」と小首を傾げた。それから「桜はね、北高かな。制服可愛くてずっと憧れてたの」と目をキラキラさせながら志望校を教えてくれた。  進路に悩んでいるのは本当のことだ。でも、絶対に教えてなんかやらない。私は、桜子とは違う高校へ行くのだから。幼稚園の頃からずっと一緒にいたけれど、いい加減解放されたかった。騎士なんて位置付けもうんざりだ。高校受験は絶好のチャンス。そのためなら、興味のない話にも耳を傾けていられる。酷いことされたってなんでもない振りを貫ける。あと一年我慢できる。 「そういえば、工藤くんはね」  ーーそう、思っていたのだけれど。 「……ねえ」 「なあに?」 「高橋(たかはし)とはどうしたの?」 「え? 春休み入る前だったかな……とっくに別れたよ。言ってなかったっけ」 「……聞いてない」  ビックリ仰天みたいな顔をしているけど、あまりにも白々しい。どうしてそんな顔ができるのか分からない。いつの間にか高橋との距離を詰めて、私から盗ったくせに。
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