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私は同級生の高橋と付き合っていた。二年の一学期から冬休みに入る前まで。半年と少し。関係はかなり良好だったけど、振られた。原因は他でもない桜子だ。それなのに、三ヶ月も経たないうちに別れた、らしい。
「桜としては終わった話だったから、言ってなかったのかもねぇ」
「……早くない? 私に悪いとは思わなかったの?」
「それはちょっとは申し訳ないなって思ったけど……でも好きになっちゃったし、今は好きじゃなくなった。それだけの話でしょ?」
翠は、アイドルの柚木くんみたいな正統派イケメンが好きだ。絵美は、季節で言えば春みたいな穏やかな人がタイプだ。これは女子バレー部内での恋バナで得た情報だ。私の場合は、顔も性格もなんだって良かった。私だけを見てくれる人なら、桜子に靡かない人なら、どんなだって構わなかった。それが一番難しいと分かっていたけど、本気でそう思っていた。
高橋は、女の子らしい女の子は苦手だと言っていた。何喋って良いのか分からなくて困るって、だから、同じバレー部の私といるのが気楽で好きだって。そう言ってくれたのに。男友達といるのと変わらない気がするって何よ。「佐倉ももう少し女子っぽくした方が良いかも……ほら、髪伸ばすとかさ!」と悪気もなく言い放った元彼はその瞬間、世界で一番大嫌いな男になった。
「……桜子のそういうとこ、ちょっとどうかと思うよ」
「でもさ、高橋くんはもう桜の彼氏でも、優ちゃんの彼氏でもないんだよ? どうでも良くない?」
へらっと桜子は笑った。
「そんなことより、今、工藤くんのこと気になってるんだけどね」
桜子にとっては"それだけの話"で"そんなこと"で済まされるような話なのだ。今、私は頭が沸騰しそうなほど熱いのに。腹の底からぐつぐつと何かが燃えているような、その何かが食道を逆流してきそうな気がするのに。それを抑えようと血が止まりそうなくらい強く鞄を握りしめているのに。この温度差はなんなんだ。
好きになったら関係ないじゃん?を地でいく身勝手さも、新しい恋がしたいと私の前で平気で言うその無神経さも、学生達の暗黙のルールで、目立つ可愛い子しか着られないベージュのカーディガンを堂々と着ているその図太さも。私には、理解できそうもない。
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