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「それで結局、別々に帰った。でも、きっと桜子も気にしてくれたんだろうね。……だからあんなことになったのかな」  あの頃、散々色んな人にした説明を繰り返す。私の中ではそういうストーリーになっていた。一緒に帰らなかった、知らなかったでは不自然だと思ってのことだった。本当のことと嘘を織り交ぜて話せば、真実味があるような気がした。実際、同情こそされたけど、何も疑われることはなかった。 「なんだ、良かった。俺、てっきり……」  杉野はあからさまにホッとして、ずり落ちてきた子供を抱え直している。そんなに怪しいと思われていたとは思わなかった。 「訊いてくれれば良かったのに」 「訊けなかったんだよ。……あの頃、俺、佐倉が好きだったから」  絶句した。あの頃の杉野ってどんな風だっけと薄い記憶を探ったけど、野球部だったことしか思い出せなかった。 「……え、初耳なんだけど」 「言えなかったしな。佐倉、大人っぽかったから、本当は声かけるだけで緊張してた」  同じクラスの時はそれなりに話をしていた方だった。クラスが離れてからも校内で会えば世間話くらいはしていた。だけど、所詮その程度の関係で。野球部だったことしか思い出せないくらいの間柄で。好意を持たれていたなんて、全く気づかなかった。 「だから、古賀の……何かに、佐倉が関わってたとしても、庇いたかった」  杉野は「余計なお世話だったな」と笑っていたけど、同じように笑う気にはなれなかった。  倒れている桜子を発見したのは、買い物帰りの主婦だったらしい。その時はまだ辛うじて生きていたみたいだけど、病院に運ばれるとすぐに息を引き取ったとのこと。……これはその日の夜に母親から聞いた話だ。「え、嘘でしょ……?」と信じられない風を装ったけど、本当は安堵していた。ああ、良かった。死んでくれて。死人に口無し。真相は桜子と一緒に葬られることになる。まさかそのせいで、私の知らないところで悩んでいた人がいたとは思いもしなかった。 「なんか、ごめんね。勝手に共犯者みたいにして。でも本当に何もないから安心してよ」  それでも私は嘘をつき通すとこを選んだ。杉野に対して、せめてもの贖罪(しょくざい)のつもりだった。優しい杉野には本当のことなんか何も知らないままでいてほしい。我が子に陽だまりのような暖かな目を向けている杉野と、幼馴染が死んでも涙も出なかった私は、全く違う種類の人間だ。
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