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洋館がある方には、大きな桜の木があった。今の季節は春。満開の花が咲き、風が吹くたびに白い花びらが舞っていく。まるで雨のようだ。
その美しい雨の中、一人の着物を着た少女が立って桜を見上げていた。春風が吹くたびに彼女の艶やかな腰ほどまである黒髪が揺れ、白い肌に光が当たる。離れたところからでもわかる美しい少女だ。
(すごく綺麗な人……。まるで、桜を見守っている女神みたいだ……)
ふと、そんなことを珠彦は思ってしまう。村にも「美人」と呼ばれている少女はいた。だが、こんなにも人を見つめてしまうのは初めてで、珠彦は自分の気持ちがわからず戸惑ってしまう。
(どうして、こんなにも見てしまうんだろう?)
珠彦の胸がジワリと熱くなっていく。その時、珠彦の視線に気付いたのか少女が珠彦の方に向く。視線が絡み合った刹那、珠彦は、全速力で走った後のように鼓動が高鳴っているのを感じた。
(何だこれ……!俺の心臓、こんなにも動いて……!俺、死んじゃうのか!?心臓、ここで止まっちゃうのか!?)
突然のことにパニックになっていると、少女は桜から離れて珠彦の方へ近付いてくる。顔がはっきりと見え、珠彦の顔に熱が集まっていった。
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