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虹色の玉
僕は京都にある稲荷神社で十四年間生きた、サビ猫のなかでも珍しい雄猫。
神社の人たちや観光のお客さんたちにかわいがってもらって、ずっと幸せに暮らしてきた。
でも最近はごはんも食べられないし動くのも辛い。
そろそろみんなとのお別れの時が近いみたいだ。
たくさんの木が生い茂る、だれにも見つからなそうな場所で静かにその時を待っていた。
すると突然目を開けていられないほどの眩しい光が降りてきて、この稲荷神社に祀られている神様が現れた。
僕の顔を覗き込み
「百の徳を積み、私の元で暮らし、眷属のきつねたちと共に私の手伝いをしてほしい。おまえは心優しく皆に愛されかわいがられていたのだから」
と言い、シャボン玉のように虹色に輝く小さな玉が入った袋を首に巻いてくれた。
「一粒食べるとわずかな時間だが霊力が強くなる。その間に一つ徳を積むのだ。玉は百個ある。すべてなくなったらまたこの場所に戻っておいで。ただし、人間や生き物の寿命は絶対に変えてはいけないよ」
そう言うと神様はスッと消えてしまった。
「あれ…なんだか体が軽くなったな」
動くのも辛くなくなったから少し境内を歩いてみたけど、だれも僕に気付かない。もしかして僕の姿は見えていないのかも。
でも眷属のきつねさんたちや猫仲間は
「がんばれよ!」
って声をかけてくれたから、見えてないのは人間だけなんだ。
一羽のカラスをたくさんのカラスがいじめてる。「早く止めないと!」
でも、体の小さい僕ではカラスたちに勝てない。
「そうだ!虹色の玉を食べればいいのか」
一粒口に入れたら、なんだか身体中に力が湧いてきた。
木の上までジャンプして、いじめられてるカラスを助けることができた。
迷子の子どもを見つけたとき
「この子に僕の姿が見えれば家族のところに誘導できるのに」
そう思っていたら、子どもが近づいてきて僕の背中を撫ではじめた。
どうやら人間に姿を見せたいと思えば、見せることができるらしい。
子どもと家族を無事会わせることができた。
それから何日もかけて虹色の玉は少しずつ減っていき、ついに最後の一粒になった。
これからは神様の役に立てるようにがんばっていこう。
「あぶない!」
男の子がボールを追いかけて車道のほうへ走っていく。
僕は最後の虹色の玉を口に入れ、咄嗟にボールを歩道のほうへ蹴り返した。
気がつくと僕は見たこともない広い草原に横たわっていた。
「あれ…男の子は…ここはどこだろう」
あぁそうか。男の子は無事だったんだ。でも僕はあの子の寿命を伸ばしたんだ。
最後に失敗してしまった。神様の言いつけを守れなかった。
だから僕は死んでしまったんだ。でも十四年間とても幸せに暮らすことができた。
いつか生まれ変わってまたあの稲荷神社に行くことができたら、その時には神様に謝らなくちゃ。
言いつけを破ってごめんなさい。
お手伝いできなくてごめんなさい。
今まで見守っていただきありがとうございました。
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