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「上等」わたしはそれだけ言った。それで十分だった。その言葉に執行猶予機関で知り得たことに対する全ての答えを籠めた。ヴェリハーベンの言葉を聞いても、もうわたしの心は凪いでいた。静謐な海を見渡してはその風景に感動するように心はやっと求めていた答えを探し出せたように静かな明るさに照らされていた。……永遠永久に近い時を生きられればわたしはわたしのやりたいことを全て叶えられるだろう。“書く者”は天職だ。大勢の“持つ者”に関わればそれだけ多くの“持たざる者”とも関わることが出来る。しかし罪人にとっては死刑以上の厳罰だ。忘却も許されない不死など! それから逃れさせたくて、オスカーたちは本能的にわたしがものを書くことを忌んだのだろう。だがもうわたしに逃亡の道は要らない。わたしに慈悲と情けの為の首を垂れ、祈りを捧げるなら自分と自分たちが害してしまった人たちに捧げて欲しいとわたしは願った。
「わたしを探そうとした対価は高くついたな」
「わたしはそうは思わない」ヴェリハーベンはその言葉には何も答えず、眼を向こうにやった。わたしも眼を向けて驚いた。いつの間にか人が集まっている。わたしとヴェリハーベンがいた場所は大きな広場で左右前後は眩しくて何も見えない。ただ光で満たされた全ての果てのような大きな円の中に大勢の“持つ者”と“持つ者”候補が集まってまるで何かを待っているように佇んでいる。
「……ここでわたしは“持つ者”になるの」
「そうだ。ここで前世の記憶と容姿は抹消される。準備は出来たか。始まるぞ」そう言ってヴェリハーベンはわたしからそっ、と身を引いた。それを引き金にしたのか大勢の“持つ者”が途端に“持たざる者”から離れ始める。彼らは果ての円から出ていくとわたしの視界から順々に姿を消し始めた。するとだんだん光が強くなって自分の手足すら見え辛くなって来る。
次、顔を合わせる時には、わたしとヴェリハーベンはもう同じ立場になっている、というのは不思議だ。彼は次、どのような前室を造るのだろう。また列車だろうか、それとも全くの別物? 他の“持つ者”はどのような気質と性格を持っているのだろう。どんな前室を造るのだろうか。ギョウブにはまた会えるだろうか。記録を取る以外で、彼とはもっと話をしてみたい。他の“信じる者”“持つ者”と話をしたら罪の本当の償い方についてもっと分かることが有るだろう。“見る者”を始め今はわからない分かっていないことは多々有るが、“書く者”として在り続ければ空白は埋められるだろう。その時に本物の土を踏みたい、という願いも叶えられるのだろう。
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