水野奏は断れない

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「俺と、別れてほしいんだ」 「……え?」  期待していた言葉とは真逆で、うまく処理できない。返事ができないでいると、電話の向こうからため息のような吐息が聞こえた。 「ごめん。奏以外にも付き合ってる子がいて、その子が妊娠しちゃったみたいなんだ。責任取ってその子と結婚することにした。だから、奏とは……」 「そっか。妊娠しちゃったなら、しょうがないよね。うん、わたしのことはいいよ。大丈夫」  ひと息に言って電話を切った。すぐ近くのベンチに腰をおろす。渉、結婚することにしたって、勝手に決めちゃってるんだ。わたしが別れたくないって言ったらどうするつもりだったんだろう。渉って最初からそうだった。付き合ってくださいって言ってきたときも、自分がそう言えば交際が始まると思っているような節があった。  サークルの後輩だった渉とは、在学中ではなく卒業後に付き合い始めた。というのもわたしは名前を貸していただけだから、在学中に知り合うことはなかったのだ。  卒業から数年後、サークルの先輩からOB・OG会をやるから集まろうと連絡があった。何か理由をつけて欠席するつもりだったのに、ドタキャンした人の代わりにどうにかして来てもらえないかと電話がかかってきたのだ。  気の進まないまま出席し、存在感を消しながら黙々と食事をしていたところに話しかけてきたのが渉だった。正直放っておいてほしいと思いながらも、しきりに話しかけてくる渉に愛想笑いでやり過ごした。一次会が終わり、早足で駅へ向かうわたしの後を渉は追いかけてきていて、気づけば連絡先の交換をさせられていた。
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