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それから何度かデートに誘われ、いつのまにか付き合うことになっていた。付き合ってくださいとは言われたけれど、交際を受け入れるような返事はした覚えがない。とはいえ歳下の男の子に恋慕われるのは気分がよくて、まあいいか、と流されてしまったのだった。
そんな始まりだったけれど、付き合ってかれこれ三年。なんとなく渉と結婚するんだろうと思っていた。けれども、深呼吸して気持ちを落ち着かせてみたら、渉に対して未練のようなものがこれっぽっちもなかった。薄情な女だ。
空を見あげ、ふうと息をはくと、頭に浮かんだのは祐一だった。祐一は幼馴染で、初恋の相手だ。想いを伝えないまま疎遠になってしまったからか、こうしてひとりになったときにはふと心に蘇ってくる。
祐一への恋心を自覚したのは、中学二年生の頃だった。友達に祐一との仲を取り持ってほしいと頼まれたのがきっかけだ。そのときはまだ自分の想いには気づいていなかったから、快諾した。けれど、ふたりが仲良くなっていくのを見るたびに、心にすきま風が吹くようになった。そうなってからわたしは祐一のことが好きだったんだなって気づいた。友達を裏切ることもできず、恋心はなかったことにした。高校は全然違うとこに決めて、卒業後は連絡も取っていない。当然ふたりがどうなったかも知らない。
春の匂いの風に混じり、早くも咲き始めた桜の花びらが空を舞う。それを見ていたら、祐一への気持ちを閉じ込めたあの頃のことを思い出して、気が滅入った。春は、桜は、嫌いだ。
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