46人が本棚に入れています
本棚に追加
平日の真昼間に帰ってくることは滅多になくて、明るいだけでいつもの道と違うように感じる。鍵をがちゃりとまわし、ドアノブに手をかけた瞬間、家の内側から物音がした。おそるおそる扉を押すと、内側から勢いよく引っ張られ、体勢を崩す。何者かが倒れ込んだわたしの上に馬乗りになった。叫び声を上げようにも、その人はわたしの口元を手で覆ってしまい、くぐもったうめき声がかすかに聞こえるだけだった。空き巣だろうか。いつもと違う行動パターンをしたから、鉢合わせてしまったのかもしれない。
「声を出すな。出したら殺す」
低い、男の人の声だ。必死になって頷いた。抵抗の意思がないことを確認したからか、口元を覆う男の手の力が弛む。
「金はあるか」
「家には置いていないから、財布の中にある分だけ……」
震えながら答えると、男はすぐそばに転がっていたわたしの鞄を掴み、逆さにして中身をぶちまけた。その中から財布を見つけると札入れの中を確認する。
「たった三万か」
「すみません、これでもわたしにしては持っているほうです」
普段から大金は持ち歩かないようにしている。なぜわたしが謝っているのだろうと思いながら、事実を告げた。
「まあいい、これをもらっておく」
「あの、困ります。わたし、今日会社からクビを宣告されたばかりで、次の職が見つからないと、収入もなくなってしまうんです」
最初のコメントを投稿しよう!