水野奏は断れない

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 平日の真昼間に帰ってくることは滅多になくて、明るいだけでいつもの道と違うように感じる。鍵をがちゃりとまわし、ドアノブに手をかけた瞬間、家の内側から物音がした。おそるおそる扉を押すと、内側から勢いよく引っ張られ、体勢を崩す。何者かが倒れ込んだわたしの上に馬乗りになった。叫び声を上げようにも、その人はわたしの口元を手で覆ってしまい、くぐもったうめき声がかすかに聞こえるだけだった。空き巣だろうか。いつもと違う行動パターンをしたから、鉢合わせてしまったのかもしれない。 「声を出すな。出したら殺す」  低い、男の人の声だ。必死になって頷いた。抵抗の意思がないことを確認したからか、口元を覆う男の手の力が弛む。 「金はあるか」 「家には置いていないから、財布の中にある分だけ……」  震えながら答えると、男はすぐそばに転がっていたわたしの鞄を掴み、逆さにして中身をぶちまけた。その中から財布を見つけると札入れの中を確認する。 「たった三万か」 「すみません、これでもわたしにしては持っているほうです」  普段から大金は持ち歩かないようにしている。なぜわたしが謝っているのだろうと思いながら、事実を告げた。 「まあいい、これをもらっておく」 「あの、困ります。わたし、今日会社からクビを宣告されたばかりで、次の職が見つからないと、収入もなくなってしまうんです」
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