水野奏は断れない

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 慌てて銀行のアプリを立ち上げる。預金残高が数万円しかない残念な口座だ。毎月同じ日に、同じ口座に入金していることが取引履歴から確認できた。 「ほら、ちゃんと入金してます」 「はぁ? 一体誰に入金してるんだい。これはうちの口座じゃないよ」  どうやら半年もの間、見ず知らずの人間にお金を振り込んでいたらしい。どうして気づかなかったのだろう。 「今すぐ半年分払えるって言うなら見逃してもいいけど」 「半年分を今すぐはさすがに無理です。一か月分ならなんとか……」  言いながら財布に手を伸ばして固まる。そういえば、昼間に手持ちの金はすべて渡してしまっていたんだと思い出す。 「どうしたんだい。一か月分すら払えないのかい?」 「すみません」 「じゃあだめだ。明日にでも荷物まとめて出ていきな」  大家さんはそう言って扉を勢いよく閉めて出て行ってしまった。 「どうしよう」  幸か不幸か家具家電付きの住宅だったから、すぐに出て行こうと思えばできてしまう。問題は次の住まいだ。渉とは別れてしまったし、いきなり転がり込めるような友達もいない。駅前にネットカフェがあったっけ。さすがにすべての荷物をネットカフェに持ち込むのは無理だろう。すぐには使わない荷物はスーツケースに詰めて、駅の大きなコインロッカーに入れてしまおう。夜遅くなる前に置いてこなければ。慌てて家を飛び出した。
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