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「ちょうど良かったんだよ」
外出自粛やステイホームという言葉をよく耳にするようになった頃、僕は思った通り正直に言った。もし、まだ、定期的に時間を作って会うだけの関係だったら、それさえ阻害されて物足りなくなっていたに違いない。
「収まるまで待ってたら、俺はもっと老けてただろうしね」
銀ちゃんもそう言っていた。
銀ちゃんにぶつけるつもりはないけれど、そう言わせてしまうこれまでのこの社会体制は、おかしかったんだと思う。
年齢や性別が、社会的地位や肩書きが、そんなに重要なのだろうか。そんな世界、一回全部叩き潰して、また組み立て直した方が早いんじゃないか。これは、そのための出来事だったんじゃないかとすら考えている節がある。
サウンドクリエーター・Kowappaとしての人生のゴールというのは、持たない事にした。五十年でもそれ以上でも、生き甲斐だと思えるうちは音楽を作り続けるつもりでいる。この世界と僕を、繋ぎ直してくれたのが音楽だから。
実は、好きなクリエイターの作品に起用されたい、大きな音楽イベントに出演したい、なんて具体的な目標も、少し前はあった。これが仕事になると気付いた頃くらいまでは。
でも、例の感染症が流行して以降、そんな輝かしい未来が思い描けなくなってしまった。専門家を名乗る人にすら一ヶ月後の事も分からないのに、“一般人”の僕に、何かを決められる筈なんてない。
今まで積み上げて、築き上げてきた物が全部崩れて、全員が出口の見えないトンネルに放り込まれたのだ。
これまで何とか騙し騙し、隠したり、見ないフリをしたりできていた事……その化けの皮とか、ベールとか色々な物が剥がれ落ちて、向き合わざるを得なくなった。変わらざるを得ない時が来たのだ。
来た道を戻る方法も分からないし、いつか光が見えると信じて進むしかない。
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