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「ほんとに不倫旅行になっちゃうでしょ」
もし奥さんや子供がいたら、別れてはくれないんだな、と思った。銀ちゃんは真面目で、優しい人だから。
「銀ちゃん、僕の妹と結婚しない?」
思い付くまま言ってみた。
妹のことは、よく知らない。一緒に暮らしていた頃もあまり話した記憶がない。歳が離れていて、連絡先も変わっているはずだ。まだ学生だという事くらいしか分からない。
「何言ってるの、もう」
「母さんと再婚でもいいよ。そうすれば家族旅行って事でまた来れるよ」
「氷治、冗談でも失礼だよ」
叱ってくれるのは少し嬉しい。でも、引っかかるし納得いかない。銀ちゃんが僕より、僕以外の人に対しての礼儀を通そうとするのは。
「気にする事ないのに。ここにいない人のことなんか」
「……もう寝ようか」
銀ちゃんが話を終わらせようと、行灯型のライトに手を伸ばして、消そうとする。
その前に僕は飛び起きて、自分の布団一式を銀ちゃんの方へ引きずって行った。パソコン作業も終わり、スマホの充電も繋いだのだから、遠くにいる理由がない。
銀ちゃんは何も言わず、コードを手に持ったまま、少しきょとんとした顔で見てくる。
隣に布団をぴったりとくっ付けて、僕はその上に正座した。
「銀ちゃん。僕やっぱり、僕の全部銀ちゃんにあげられる。だから銀ちゃんの残りの人生、僕にくれる?」
「氷治の残りの人生はどうするの? まだ俺の半分なんだよ?」
あの時とは、答えが変わっていた。少なくとも、僕と添い遂げる事は決意してくれている。
それが確認できただけで、この旅行は成果があったと言っていい。どこにも観光に行けなくても、日常を離れたから引き出せたのだ。
「銀ちゃんが居なくなってから考える」
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