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「……じゃ、できるだけ早いとこお暇しないとね。氷治が少しでも若いうちに」
「銀ちゃんこそ何言ってるの。年齢で判断してくる相手なんてこっちからお断りだから」
強めに言っても、銀ちゃんは笑うだけだ。
年齢に固執したり、引け目を感じたりしている銀ちゃんのことまで否定してしまったようだと、言った後で気が付いた。
僕が布団に入ってから、銀ちゃんがライトを消した。
掛け布団から腕を出して、仰向けで、目を閉じる。隣で銀ちゃんも眠る体勢になったのが聞こえた。
「……銀ちゃん」
「ん?」
「幸せになろうね」
雨の音と、畳の香りと、柔らかい闇に満ちた室内。それが、僕にこんなことを口走らせた。
「そうだね。でも、今も十分幸せだよ、俺は」
真面目で堅実な銀ちゃんは、あまり多くを望まない。
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