エッグトースト。

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チーン。 朝の殺伐とした空気は、この音で塗り替えられる。 様々な感情が交差した此処では、雑多に蠢く人々の思考が、感情が行き来する。まるで、戦場。我先にと歩み続ける彼等は少し気味が悪いほどだ。 そんな汚れてしまった空気を、この音が和ませる。正しくあるべき朝に正すのだ。 袋からパンを取り出し、私は用意していた卵を乗せる。 涎が垂れた。──まだだ、まだ── その周りにマヨネーズをかける。マヨネーズはあまり好まないが、今回は別だ。たっぷりかけた。 手が伸びる。──あと少し、あと少しの辛抱だから── 冷蔵庫からスライスチーズを取り出した。開けて、すぐにチーズを乗せる。 ああ、美味しそう。──あとすこし── 棚から乾燥パセリを取り出した。とあるメニューサイトに書いてあったからだ。乾燥パセリの有無で味は大しては変わらないだろうが、少しでも優雅な食事を愉しむため、ぱらぱらと散らす。──…少しくらいなら…いや、駄目だ!── 我慢の限界を迎えたため、自分に食べる隙を与えないよう俊敏な動きでトースターに入れる。香ばしい香りがした。 チーン。この音だ。私は焼きたてのトーストの熱さも気にせずに皿に乗せた。 やっと、やっと。私は素早く椅子に座り、大きく頬張った。 エッグトーストはまだ暖かいパンと卵、マヨネーズが絶妙な調和を奏でていた。──最高だ、と私は考える。どんなオーケストラの音楽を聴いても、見つからない幸福──そこにとろけたチーズがやってきた。存在を無視していたことに謝罪し、この幸せに埋もれていた。 食べ終わるのはあっという間だった。 明日も、作ろうかな。
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