3.10

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 次郎は東京に住む大学生。東京の大学に通うために、新潟から引っ越してきた。次郎は最初の1年間を終え、大学での2年目に向かって心の準備を進めていた。 「はぁ、少し歩いてこよう」  気分が落ち着かない。少し歩いてこよう。深夜の街は暗いけど、それもいいかもしれない。  次郎はアパートを飛び出して、周辺を歩き出した。ここは東京の下町だ。とても静かで、繁華街とはまた違った風情がある。 「静かだなー」  明かりはほとんどついていない。街灯ぐらいだ。この辺りの家々の明かりは消えている。もうみんな寝ているんだろう。  と、次郎は明かりがついているのを見つけた。こんな夜遅くに、何をやっているんだろう。次郎は興味を持った。 「ん? これは何?」  次郎はそれをじっと見ている。地下室っぽくて、階段の先には何かがある。 「明かりがついてる。地下室かな?」  次郎は階段を降りて、その下に向かった。階段の壁は古臭くて、何年も掃除していないようだ。  階段の先には、小さな部屋がある。3畳ぐらいの大きさだ。東京にこんなのがあったなんて。次郎は部屋を見渡した。 「ここは何だろう」  と、突然、外でサイレンが聞こえた。緊急警報だろうか? 「ん? サイレン?」  程なくして、爆発音も聞こえた。戦争だろうか? もう戦争は78年前で終わっているはずだ。なのに、また戦争でも起こったんだろうか? 「何だろう。爆発音がする」  次郎は階段を上がって、地上に出た。だが、そこは別の場所になっていた。いや、昔の東京だろうか? 古い家屋が立ち並んでいて、それらが燃えている。そして、焼夷弾が雨のように降っている。 「な、何だこりゃー!」  次郎は信じられなかった。まるで戦時中にタイムスリップしたようだ。目の前の光景が信じられなかった。  と、何人かの男女がやって来た。彼らはもんぺを着ていて、名札を付けている。まるで戦時中の人々のようだ。いや、自分は戦時中にタイムスリップしたのかもしれない。 「早く! 早く逃げて!」  次郎は呆然としていた。何をしていいのかわからない。  と、ある男が次郎を見て、注意した。何かを急いでいるような様子だ。 「おいおい! そこの君、早く防空壕に逃げるんだ!」 「は、はい!」  言われるがままに、次郎は地下室に逃げ込んだ。やはりここは防空壕のようだ。 「えっ、戦時中にタイムスリップした?」  次郎は焦っている。どうして自分が戦時中にタイムスリップしたんだろう。夢でも見ているんだろうか?  と、防空壕に火が迫ってきた。安全と思われていたのに、まさか火が迫ってくるとは。 「火だ! 火だ!」  防空壕に逃げ込んでいた人々はみんな驚いている。出口は1か所しかない。どうしよう。 「そ、そんな・・・。うわぁー!」 「もしもし、もしもし、大丈夫ですか?」  と、次郎は誰かにゆすられている気がして、目を覚ました。どうやら夢だったようだ。気が付くと、もう朝だ。そこは、昨日の深夜に入った地下室だ。 「こ、ここは?」  目の前には老婆がいる。この近くに住んでいる人のようだ。 「一晩中、ここで暴れてたんですよ」 「そんな・・・」  次郎は驚いた。深夜に散歩していて、たまたま地下室を見つけて入っただけなのに。 「どうしたんですか?」 「戦時中にタイムスリップして、何が起こったのかなと思って」  それを聞いて、老婆は驚いた。何かを思い出したようだ。 「まさか、この日にここに来る人がいるとは」 「えっ!?」  次郎は呆然としている。今日に関係があるんだろうか? 次郎は首をかしげた。 「今日って、東京大空襲があったって、知ってる?」  それを聞いて、次郎は思い出した。今日、3月10日は東京大空襲のあった日だ。まさか、昨日の夢はそれだったんだろうか? 「知ってるけど、ここってまさか、防空壕だったんですか?」 「はい」  やはりここは防空壕だったのか。まさか東京大空襲のあった3月10日の未明にここに来るとは。何という偶然だろうか? 「やはりそうだったんだ」  と、老婆は空を見上げた。今日はいつものような空が広がっている。平和な世の中になって、戦闘機が全く飛んでいない。だけど、戦死した人々はもう帰ってこない。太平洋戦争の歴史はこれからも残り、そして語り継がれていく。 「そういえば、今日でちょうど78年目なんですね」 「語り継がねば・・・」  次郎も空を見上げた。僕らは生きている限り、語り継がなければならない。かつて、太平洋戦争があり、東京が1夜にして焼け野原になった。そして、多くの尊い命が奪われた。戦争を知らない僕らは、そんな歴史をどう見ているんだろう。そして、それから何を感じるんだろう。
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