1話

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 文字通り重たい足取りで、ようやく控え室にたどり着く。スタッフが頭と胴体をつなぐジッパーを外し、頭を取ってくれる。クーラーの効きが悪くて部屋は大して冷えていないはずなのに、とんでもなく涼しく感じられた。悪臭から開放された喜びもあいまって、ひんやりした空気を存分に鼻に吸いこむ。  俺が脱ぐのに苦労していると、さっさと自分の分を脱いだ中島が手伝ってくれた。 「お疲れ様! いや、いや、すごかったよ! 本当に初めて? もう完璧じゃない! やっぱりダンスやってる人はすごいね!」  興奮してまくしたてる中島は、Tシャツも頭に巻いた手ぬぐいもぐっしょりぬらして、ゆでダコみたいに真っ赤な顔をしていた。きっと俺も同じような状態だろう。  それからも中島は、俺の目の前に扇風機を持ってきてくれたり、タオルやスポーツドリンクやゼリー飲料や塩アメを(すす)めてくれたり、脱いだ着ぐるみを片づけたり、動き続けていた。一方俺は、パイプイスに沈みこんだまましばらく動けなかった。肉体的な疲労もそうだけど、それ以上に気力を根こそぎ持っていかれた感じだ。とりあえず水分だけは()らないとまずいと思ってスポーツドリンクに口をつけたら、一瞬で五百ミリのペットボトルが空になった。 「いやぁー、急なこと言ってごめんね。本当に助かったよ。このスーツ着れる人、なかなかいないんだ」  それもそのはずだ。この着ぐるみは(たる)型の胴体をかぶったあと、ブーツと頭を装着する。この胴体の着脱がびっくりするくらい大変だ。樽型ゆえに上下がすぼまっているので、小柄な俺が限界まで肩をすぼめてやっと着られたのだ。中島も、俺と同じか少し低いくらいの身長しかない。「君しかいない」とは、そういう意味だったのだ。 「で、どうだった?」  中島が俺の顔を覗きこむ。  答えに困った。  中島がどんな返事を期待しているのかは、わかる。でも、答えたくない。これは俺が応募した仕事と違う。だけど、今さら面接の続きをやってもらえるものだろうか? もし面接を再開してくれたとしても、あっちは嫌だけどこっちはやりたいですっていうのは、心象(しんしょう)的にどうなんだ?  時間(かせ)ぎのつもりで曖昧(あいまい)に笑ったら、中島は嬉しそうに目を細めた。目尻のシワと同化して目が一本の線になる。 「よかったぁ。じゃあ、このあとも頼むよ」
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