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次の日が来るのがあんなに嫌なことなんてあっただろうか。少なくとも、中学生だった僕にとって、あれが一番辛い夜だった。
ついに当日が来た。その日は丁度、桜が満開になった日だった。
「好きです…!付き合って…下さい…!」
そう真っ直ぐに言って頭を深く下げた彼を、僕は桜の木の影から隠れて見ていた。
そんな風に言われたら、誰だってオッケーすんじゃん。
でも、晴夫くんの向かいにいる女の子からは、予想外の言葉が発せられた。
「ごめんなさい…!凄く嬉しいけど、私、好きな人がいるの…それに、山里くんなら、もっといい人いるでしょ?」
え…?
振られた…?晴夫くんが…?
あまりにも想像していた状況と違っていて、理解するのに時間がかかった。
でも、僕の鼓動は速くなっていた。それは、僕が物凄く喜んでいたから。だから僕の心臓は高鳴っていたんだ。
ドクドクとうるさい程の内から響いてくる音を聞きながら、違う、違うんだと、これは喜ぶべきことじゃない、晴夫くんは今きっと凄く凄く辛いんだと自分に言い聞かせた。
でもやっぱり僕の口角は憎らしげに上がっていた。最低だと解っていたけど、良かったって思ってしまった。彼が誰かのモノにならなくて。
顔を上げて、彼の顔を見た。
真っ先に目に飛び込んで来たのは、ただ美しい瞳。その瞳に涙が浮かんでいること。
涙がこぼれ落ちないように力を入れた唇、切なそうな眉。
ああ、綺麗だ。
なんで、どうしてこんな綺麗な顔を、こんなときにするんだ。いや、こんなときだからこその顔なのだろう。でも、なんでこの女の子の為にこんな顔するんだ。なんで僕じゃないんだよ。
そんなことを考えてしまった僕が怖い。
可哀想とか、辛いなあとか、そんなんじゃなくて、彼を振ったあの女の子に物凄い嫉妬をした僕が恐ろしい。
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