夜桜と僕

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夜桜と僕

 僕は今、彼の運転する車の助手席に乗っている。今夜は一緒に居酒屋に行って、ちょっと遅れた僕の成人祝いをしてきた。そして、お酒を飲んでいない彼が家まで送ってくれているというわけだ。 「夜桜っていうのも、華があるねぇ」 彼が楽しげに言う。 「そうだね。僕、あんまり見たことなかったけど、意外と良いかも」 ふふふっと二人で笑い合う。今すごく幸せだ。この時間がずっと続けばいいのに。 「ちょっと降りてみようか」 車を止めて、外灯の薄明かりが広がった夜の並木道に出ていった。 僕も反対側のドアから出て、彼の近くへ行く。 「やっぱり、桜っていいね。僕、桜って好きだな。青春を思い出すねぇ」 無邪気な笑顔になった後、ふと一瞬だけ、憂いを帯びた、どこか遠くを見ているような顔をした。 まただ。 僕はあの時の彼の表情を思い出した。 僕には見せてくれない、切なそうな、怒っているような、泣いているようなその顔。 僕にはいつも、笑顔しか見せてくれない。 彼はきっと、僕の知らない遠いものを見ているんだ。それが悲しくて、寂しくて、はがゆい。君には追いつけないのだろうか。僕は。
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