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少し寒い、私と青年の身体は水で濡れていた。
きっと青年が川で溺れている私を助けてくれたのだろう。
『このままじゃ寒くて本当に死んじゃうな、早く乾かさないと』
そう言ってタカヒロは猫を軽く抱きかかえ、自分の家へ向かった。
タカヒロは家に着くと直ぐにタオルとドライヤーを手に、猫の毛を乾かし始めた。
私はドライヤーの風がちょっと熱く感じたけれどじっとしていた。
『よしっ!こんなもんかな』
タカヒロは猫の毛を乾かすと浴室へ向かった。
少し落ち着いてきた私は、その間に今までの出来事を頭の中で整理することにした。
私がなぜ猫の姿をしているのか、この街にやって来たのか、川に飛び込んだのか。
猫の姿である事は分からないが、私はある人を探すためにこの街にやって来たはずなのだ。
『ふぅー、さっぱりした〜。おっ!ニャンコ元気になったか』
私は元気であることをアピールするために、元気そうな鳴き声を出そうとした。
『元気だよー!』
私は何も気がつかなかった。
タカヒロは目を丸くし口が開きっぱなしでいる。
私は首を傾げしばらくじっとしていると、タカヒロの口が動いた。
『い、いま喋ったよな?お前』
私はタカヒロのその言葉を聞き、目をパチクリとさせた。
続けざまにタカヒロは喋る。
『お前、喋れるのか?』
私はタカヒロが言っている事は分かるが、意味が分からなかった。
『猫なんだから喋れるわけ無いでしょ』
私は無意識に口に出していた。
タカヒロは声にならないような言葉を発しながら興奮し出した。
私が喋れる。猫が人間の言葉を喋れる。
普通に考えて猫は人間の言葉を喋れるわけがない。
しかし現に今、私は人間の言葉を喋っているのだ。
『なんなんだ!お前は?』
『猫だよ』
今私はようやく自分が何をしているのか理解できた。
私はこの青年と会話している。
私は人間の言葉を話すことができる。
タカヒロは深く深呼吸をし、自分のほっぺたをつねっている。
ほっぺたを赤くしながらタカヒロは言った。
『もう一回喋ってくれないか?』
私は頷き、言葉を発した。
『こんにちは』
『あ、こんにちは』
タカヒロは猫の挨拶につられた。
『いや、こんにちは。じゃ!ねーよ!』
私はその姿を見て思わず大声で笑ってしまった。
『あははは。なんか喋れるみたい』
タカヒロは現実の出来事だと認識し、その場に正座した。
『お前、名前は?俺はタカヒロ』
タカヒロはとりあえず人間と会話をするのと同じような口調で自己紹介をし出した。
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