さくらの花冠

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『桜の花びらがキレイ』  薄紅色の花びらが雨あがりの陽のあたる水たまりに浮かんでいる。  水面は光の反射で煌めいていた。しっとりとした花びらは、まるで光の宝箱の中にそっと舞い降りたようだった。 「これが彼女の最期のSNSへの投稿になるわけですが」  そう言って高校生探偵とやらは、みんなが見えるように仰々しくスマホの画面を向けた。 「よく見て下さい。この写真を撮った人物は彼女ではありません。分かりにくいですか? 影ですよ。この写真を撮った人物は、髪が長くて後ろで結ってる人物です。そう、アナタみたいにポニーテールにね」  探偵は決定的な証拠を見つけたとばかりに、私と真っ直ぐに向き合った。 「この写真を撮ったのが彼女ではない。彼女はすでに殺されていたんです」  彼に振られてひどく落ち込んでいた。  友人は口を揃えてそう証言した。確かに目に見えて落ち込んでいた。  雨あがりの屋上から誤って滑り落ちた、もしかしたら自ら命を絶ったとそう警察は結論づけていたのに。この高校生探偵が出しゃばってくるまでは。  ベテランらしい中年の刑事がスマホをジッと眺める。 「人の影?」 「ええ、水面です。この部分だけ暗くなっているでしょう? 画像解析すればもっと鮮明になりますよ」 「ポニーテール……」  刑事は、そう見えなくもないかと呟いた。 「ポニーテールの人が犯人なら、この学校全てのポニーテールの人が怪しいでしょう? それに今は結わずにおろしてるかも」  私はわざとらしく呆れたような仕草をした。  だが探偵はそれもまた先読みしていたとでもいうふうに鼻でわらった。 「ええ、そうです。けどこの写真は体育館脇の桜の木の前で撮られたものです。あの道だけは土の乾きが非常に遅いんです」  探偵は一度言葉を切った。 「つまり靴の底には濡れた土が付いているはず。だから調べてもらったんですよ、靴の底に濡れた土の付いていた人物を。該当者は七人。うち五人は男子です。髪は長くない。残り二人は女子でしたが、もう一人はショートカットだったんですよ。残る一人は──」  探偵はそのまま私を冷えた眼差しで見つめた。  部屋に入ってきた若い刑事が、ベテラン刑事にそっと耳打ちをする。  私が彼女の彼を奪ったことを知られてしまったのかもしれない。誰にも知られないはずだったのに。  あの時、桜の木なんて見上げなければよかった。桜の花びらが美しいなんて思わなければよかった。  咲愛(さくら)と同じ名の花を。
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