ダ・マ・シ・タ・ナ

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 ……そう、ついさっき俺は、課長から大事な話があると言われて、社内の会議室に呼ばれた。そこは会議室というには小さな部屋で、大人数で話しあいをするというより、上司が部下と個々で面談する時に使用するような場所だった。  俺はここのところ仕事上で立て続けにミスを犯し、取引先や上司に頭を下げまくる毎日だった。それまでは次期主任候補と言われていたのに、大いに評価が下がったことだろう。おまけに社内恋愛をしていた恋人の翔子にも、つい先日「今はちょっと、お互い距離を置いた方がいいかもね」などと、体のいい別れ話をされたばかりだった。  だから、終業時間を終える間際に、課長に「面談の部屋」に呼ばれたと聞いて。ここ最近の結果に対するお説教か、良くてキツい叱咤激励か。最悪、主任昇進が見送られたという宣告かも……? そんな悲痛な覚悟を胸に、部屋のドアを開けたのだが。  その途端、クラッカーが「ぱん、ぱん!!」と続けざまに、幾つも弾ける音が聞こえ。正面にある部屋の壁には、「主任昇進、おめでとうございます」という垂れ幕が貼ってあった。……そう、俺はまんまと、「騙された」のだった。課の同僚や後輩たちが中心になって企画した、俺の昇進を祝うサプライズパーティーに。  今から考えれば、後輩の社員が「課長が話があるって……」などと、「人づて」で会議室に呼び出すのはおかしいし。きちんと話をするつもりなら、終業時間内にするだろう。思い返せばおかしいことだらけだったのだ。説教される覚悟でいたなんて、「俺はなんて馬鹿なんだ」と、今さらのように思い知らされていた。
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