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医師はつねられた頬をさすりながら、「そうだな……」とひと言こぼし。何かを思い出すように、呟いた。
「意識はなかったけど、時々意味もなく微笑むことがあってね。恐らく、無意識のうちに何かの夢を見てたんじゃないかと思うが……奥さんのいる前でそれが出てくれればいいとは思っていたけど、ジャストのタイミングだったな。確かに、あれは上手くいったよ。案外俺の適当な施術に、効き目があったのかもな……?」
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翔子は病院を出ると、迎えに来ていた車の助手席に乗り込んだ。運転席に座っていた男は「……どうだった?」と、翔子の機嫌を伺うかのように問いかけた。
「上手くいったわ。担当の医者が、あの人を幸せな気分であの世へ送ってあげましょうとか言いだした時には、何言ってんのこの人? とか思ったけどね。そこで変に逆らっても仕方ないし、『死を目前にした夫を、愛し続ける妻』を演じきったわよ。ナントカっていう施術は結構いいお金取るみたいだけど、このまま海外へ飛んじゃえばあの医者も追ってこれないでしょ。少し時間かかっちゃったけど、調査も終わったことだし。保険金が下りたら、さっさと今の家も引き払いましょう」
そう言いながらバッグの中から煙草を取り出し、ふう~~……と煙を吐き出す翔子を、運転席の男は苦笑しながら見つめていた。
「数か月前、俺はあんたの計画通りに、あんたの旦那を車で轢いて。まさか意識不明のまま生き続けるとは思わなかったから、俺も焦ったけどな。でもまあ、時間はかかったが、これで計画は無事完了ってことになったわけだ」
翔子は「ふふん」と笑いながら、車の灰皿で煙草をもみ消し。それから、さも当然かのように男に告げた。
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