ところてん

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 空がきれいに晴れ渡り、じんわりと汗ばむ季節。  私は久々に伊豆にダイビングに来ていた。 「今日のダイビング良かったねぇ」 「気持ち良かったぁ。やっぱり、この季節に限るね」 「海のコンディションも良かったですよね」  日帰り温泉で塩がこびり付いた髪を洗いながら、ダイビングスクールで知り合った先輩達と今日の感想に花を咲かせる。  あのポイントがどうとか、珍しい魚がいたとか、珊瑚が綺麗だったとか……アフターダイビングに温泉でワイワイお喋りするのが、私達のお決まりのコース。 「ねぇ、この後、どうする?」  ショートカットの髪の毛をささっと洗った真澄(ますみ)先輩が、湯船にのんびりつかりながら聞いた。 「せっかく、伊豆まできたんだもんねぇ」  運転をしてくれている(みなと)先輩はうーんと頭をひねる。 「はい! 美味しいもの、食べに行きたいです!」  食べるのが大好きな私は、おふざけで挙手しながら、頭の中で伊豆と言えばなんだろう……と考えていた。  海の幸? イチゴとかも有名かな? ああ、ちょっと季節外れか。 「ところてん屋いかない?」  真澄先輩が湊先輩に提案するのを聞いて、ところてんかぁぁ……と私は少し残念な気分になる。  ま、いっか。他にもあるよね。メニュー。 「いいねぇ……さっぱり喉越しツルンとね!」  湊先輩が同意し、私の方を向く。 「みーちゃん、伊豆のところてん屋、行ったことある?」  2人は私の事をみーちゃんと呼んでいる。なんだか猫みたいな呼び名だけど。 「ないです。実は、私、あまりところてん得意じゃなくて……」  少しおちゃらけて、私はへへっと笑った。 「ええっ!? そうなの? でもね、そのところてん屋は違うの。マジで美味しいから」 「ああ、そうなんですね……でも、私は他のメニューを……」 「いや、本当にみーちゃん。絶対に意識がかわるから!」 「食べないと人生半分損しちゃうよ! 絶対に好きになるよ! そこのところてん」  ぐいぐいと私に顔を寄せ、力説する2人の熱量の高さに私は圧倒されてしまう。  そこまで言われ、断る勇気は私には、ない。  ところてんごときで、人生半分損はしないと思うけど、私の揺らぐ心を見抜かれたのかもしれない。  真剣に勧める2人の顔を見ていると、きっと、今まで食べたところてんを覆すほどの代物かも……という気分にすでになっていたのだから。
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