4人が本棚に入れています
本棚に追加
空がきれいに晴れ渡り、じんわりと汗ばむ季節。
私は久々に伊豆にダイビングに来ていた。
「今日のダイビング良かったねぇ」
「気持ち良かったぁ。やっぱり、この季節に限るね」
「海のコンディションも良かったですよね」
日帰り温泉で塩がこびり付いた髪を洗いながら、ダイビングスクールで知り合った先輩達と今日の感想に花を咲かせる。
あのポイントがどうとか、珍しい魚がいたとか、珊瑚が綺麗だったとか……アフターダイビングに温泉でワイワイお喋りするのが、私達のお決まりのコース。
「ねぇ、この後、どうする?」
ショートカットの髪の毛をささっと洗った真澄先輩が、湯船にのんびりつかりながら聞いた。
「せっかく、伊豆まできたんだもんねぇ」
運転をしてくれている湊先輩はうーんと頭をひねる。
「はい! 美味しいもの、食べに行きたいです!」
食べるのが大好きな私は、おふざけで挙手しながら、頭の中で伊豆と言えばなんだろう……と考えていた。
海の幸? イチゴとかも有名かな? ああ、ちょっと季節外れか。
「ところてん屋いかない?」
真澄先輩が湊先輩に提案するのを聞いて、ところてんかぁぁ……と私は少し残念な気分になる。
ま、いっか。他にもあるよね。メニュー。
「いいねぇ……さっぱり喉越しツルンとね!」
湊先輩が同意し、私の方を向く。
「みーちゃん、伊豆のところてん屋、行ったことある?」
2人は私の事をみーちゃんと呼んでいる。なんだか猫みたいな呼び名だけど。
「ないです。実は、私、あまりところてん得意じゃなくて……」
少しおちゃらけて、私はへへっと笑った。
「ええっ!? そうなの? でもね、そのところてん屋は違うの。マジで美味しいから」
「ああ、そうなんですね……でも、私は他のメニューを……」
「いや、本当にみーちゃん。絶対に意識がかわるから!」
「食べないと人生半分損しちゃうよ! 絶対に好きになるよ! そこのところてん」
ぐいぐいと私に顔を寄せ、力説する2人の熱量の高さに私は圧倒されてしまう。
そこまで言われ、断る勇気は私には、ない。
ところてんごときで、人生半分損はしないと思うけど、私の揺らぐ心を見抜かれたのかもしれない。
真剣に勧める2人の顔を見ていると、きっと、今まで食べたところてんを覆すほどの代物かも……という気分にすでになっていたのだから。
最初のコメントを投稿しよう!