どうしてもわかりあえない人たち

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「神様のために我慢して学ぶことってなに? 宗教教育って、てっきり、愛とか道徳の大切さを学ぶもんだと思ってたけど、ここでは違うみたいだね」  和也は口元は穏やかに笑ったままだ。しかしその目は、先ほど向けられた倍の侮蔑が浮かび、まっすぐに事務員を向いている。 「大学も、学生も、よくわかってない神様に縛られてるだけ。神を敬う自分たちだけが高潔だと思いたいだけ。神様を利用して自己顕示欲を満たしてるだけ、でしょ? ほんと、哀れだね」 「和也……」  健一が和也の腕を取って止める。  事務員は怒りに満ちた顔で、和也をにらみつけていた。 「くっ……この……無礼な! 神は信じる者こそ救うのです! 神を侮辱するような輩には天罰をお与えになるでしょう! 」  和也は意に介さず、ほほ笑んだままだ。隣にいた哲が前に出て、頭を下げる。 「部下が失礼いたしました。どうぞお許しください」  顔を上げ、事務員をまっすぐに見すえた。哲の黒々とした強い瞳に、事務員はぐっと身構える。 「こんなことで小競り合いをしたいわけではありません。われわれは、事件の捜査のためにお伺いしたのです」
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