善意と逃亡

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 女性は力を振り絞って立ち上がり、必死に走り去っていく。 「え、ちょっと……」  遠くなっていく背中に、和也はぼうぜんと立ち尽くしていた。  女性の行動も当然のことだ。この状況だけを見れば、悪者はどう考えても和也のほうなのだから。  和也はほほ笑み、息をついた。レイピアの剣先を振りまわし、血を落とす。腰の(さや)に、ゆっくりとおさめた。 「……まあ、お礼なんて、期待してなかったけど」  倒れている男たちのもとへ戻る。切り付けた腹部を靴先で軽く小突いた。  うめき声を大きく出せるのは、元気な証拠だ。 「大丈夫だよ。殺さないように手加減してあげたんだから。病院行って、医者が治療してくれるまではもつさ」  男たちを見下ろす和也の目は、穏やかだ。そこに罪悪感など存在しない。 「あ、そうだ。こんなことしてる場合じゃなかった」  男たちに背を向けて、歩き出す。 「急がないと……」  百合園和也は、決して敵に回してはならない男だった。  どんなに極悪な犯罪者でも、怖いもの知らずの殺し屋でも、和也にちょっかいを出すのは自殺行為だと知っている。善良な市民にいたっては、百合園という名前にすら震えあがるほどだ。  とはいえ、その全身から漂う雰囲気はどの男性よりも品がよく、穏やかで、高潔だった。
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