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「……どうしてこんなところにいらっしゃるの? 」
「私たちの誰かを殺すおつもりかしら」
恐怖、不安、あざけり、侮蔑……さまざまな感情が、三美神に向けられる。
その空気を切り裂くように、柔らかい声が響いた。
「まあ……。どうされたのです。こんなところで騒ぎ立てて」
事務員の後ろから、黒い礼服を身にまとうシスターが静々と歩いてきた。見た目は二十代後半といったところで、優しさのある上品な顔立ちだ。
「シスター! あれをご覧ください! あの野蛮なものたちを!」
和也を見るシスターは、息を漏らす。事務員とは違い、毒もトゲもない声を出した。
「なんと……。おケガは大丈夫ですか? そんな、ひどい血の量……」
「シスター! あれは全部返り血です! 本人はぴんぴんしているでしょう! あんなやつらは人を殺すことはあっても、殺されることなんてありませんよ!」
シスターは眉尻を下げる。
「そんな悲しいこと、言わないで」
事務員に寄り添い、背中に手を添えた。厳しくも慈愛のある口調で続ける。
「そんなに興奮しないで。落ち着いて。こんな状況だから、無理もないでしょうけどね……」
事務員は不満げに顔をゆがめるものの、シスターへ反論はしない。
「こんなときこそ、淑女としてふるまうべきなのです。神のように、いかなる者にも、広い心で接しなければなりません」
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