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善意と逃亡
薄暗い路地裏に、女性の悲鳴が響き渡る。
「ああ……やめてくれる? うるさい声、苦手なんだ」
百合園和也はこめかみに指を当て、顔をゆがませた。
白いスリーピーススーツと手袋も、水色のリボンタイも、返り血で真っ赤に染まっている。
辺りには、ガタイのいいチンピラ風情の男たちが倒れていた。誰もが血を流し、うめき声をあげている。死んではいない。
和也の背後で、女性が壁に背を付け腰を抜かしていた。髪にメッシュを入れ、柄物のミニスカートという派手な格好だ。和也が顔を向けると、体を震わせる。
「ひっ……」
和也の顔は、あっさりとしたキレイな顔立ちをしていた。切れ長の目に、細く高い鼻、薄い唇。その顔も、血しぶきに染まっている。握りしめた長いレイピアから、血が滴り落ちていた。
「大丈夫?」
和也の口角は上がり、低く甘い声が響く。
「よかったね、無事で」
ゆったりとした足取りで、近づいた。女性はあいかわらず、和也を見あげて震えている。
「女性が一人でこんなところに入っちゃだめだよ。ここは治安が悪いから。……ほら、立てる?」
女性に手を差し出す。白手袋に包まれた手のひらは、真っ赤に濡れていた。
「いやああああああああああああ! 」
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