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私が桜を嫌いな理由は、花びらの裏に、二人目のお父さんがいるからです。
どんな桜のどんな花びらの裏にも、二人目のお父さんがいます。
校庭の桜の、手が届くところにある枝をつかんで後ろ側をのぞくと、二人目のお父さんだらけです。
とても気持ちが悪いです。
折れた骨は治ったし、もうあざもだいたい消えたけど、怖かった思い出はずっと消えないのかもしれないと思います。
最初の本当のお父さん(私は会ったことがないんですけど)だったらそんなことはしないのかもしれませんが、そう言ったら、お母さんに「そんなことはないよ」と言われました。
それでお母さんのこともあんまり好きじゃなくなりました。
もうすぐ桜が散って、道の上が花びらだらけになります。
風に吹かれてひらひら舞っている全部の花びらの裏にも二人目のお父さんがいます。
地面に落ちた花びらも、めくれば全部その下には二人目のお父さんがいます。
二人目のお父さんが死んでから、そうなりました。
二人目のお父さんはお花見が好きで、桜が咲くと機嫌がよくなって、よく私をぶちました。
そのせいで私は昔から桜が嫌いでした。
二人目のお父さんはお酒は飲みませんでした。普通の時にそういう風でした。満開の桜を見て笑って、私をぶって笑って、気持ちよさそうに桜を見上げてました。
だから死んだら桜の裏に住みだしたのかもしれません。
私の町の川では、毎年、花筏というのができます。
川面を桜の花びらが覆いつくして、上を渡れそうに見えます。
花筏はゆっくりながれて、いつか腐ったり沈んだりしてなくなります。
私の嫌なこともみんな、そうやってどっかになくなったらいいのになあ。
お母さんももういないので、私は一番新しいお父さんと、新しいお母さんと、引越しをして暮らすことになりました。
新しい町は、桜がないところだといいなあと思います。
日本にはそういうところはあるんでしょうか。
終
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