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「……好きだ」
「何が?」
久々に友人と再会し、酒と言うガソリンも入り大分暖まって来たところに、脈絡もなく落とされた言葉。今食べている焼鳥か、はたまたこれまでの会話の中に登場した、俺達の地元の話なのか。
繋がりが見えなくて、頭に浮かんだ疑問を間髪入れずストレートにぶん投げたら、目の前の男は苦笑した。
「あーうん、今のはこっちが悪かったな。主語って大切だよな」
そう言って半分程残っていたジョッキのビールを飲み干してから、目を細め俺に睨み付けるような鋭い視線を向けて言葉を続ける。
「好きだ、お前のことが」
「わざわざ倒置法で言うことか?」
またもや隙間なく出て来た返答が望んでいたものではなかったらしく、彼はわざとらしく大袈裟に溜息を吐き捨てた。
「ぜってー伝わってねぇ」
「いやいや、充分伝わったって。つまり、この先も永久に親友でいようぜ! てことだろ?」
「ほらな、やっぱり。好きってのは…………恋愛的な、意味でだよ」
居酒屋、と言う総じて騒がしくなりがちな場所で、蚊の鳴くような語尾が正確に聞き取れたのは奇跡だ。寧ろ、聞き間違いだと思いたい。
「えっ、お前って、そっち、だったの……?」
「いや……高校時代彼女居たの知ってるだろ? だからまさかとは思ったよ。そんで色々調べたけど……多分、バイセクシャルなんだろうな」
聞いたことはある。確か、異性同性どっちも対象になる奴のことだ。
「つっても、男を好きだと思ったのは後にも先にもお前だけだと……思う。最初で最後にしたいな、なんて」
「え、それって、俺と添い遂げたいってこと?」
「まー……お前とはこの先、最高の親友でもありたいからさ。恋愛云々抜きにしても、離れる気はない」
それは『例えフラれたとしても、ずっと想い続けることは許せよな』って言われてるような気がした。
「いやぁ、その、別に同性愛を否定するつもりはないけど……自分が選ばれるとは思ったことなかった。つか、身近に考えたことがなかったな」
「そう言うとこだよ。『うわキモ! 近寄るな!!』とかならないんだから、お前は。昔と比べれば寛大になって来たとは言え、まだまだ偏見は多いってのに。お前って奴は……」
さっきみたいに目を細めて俺を見て来るけど、今度は呆れているような嬉しいような、優しいものだった。
「最初は、親友の延長線で構わない。段々と……恋人らしくなっていけたらと思ってる。俺と、最後の恋愛してくれませんか?」
「分かった」
我ながら驚く程即答し、差し出された手を握る。その手が妙に湿っぽいのは、緊張からの手汗かビールジョッキの水滴か。
まずは笑顔から零れ、最終的には何処のテーブルの奴らからも顰めっ面を向けられる程、互いに笑い声がデカくなる。ひとしきり笑い倒して、漸く離した手で滲んだ涙を拭き取りながら。
「あー……やっぱり好きだ、お前のことが」
「だから、わざわざ倒置法で強調するなっての」
終
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