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最後の告白は
「ごめん、浩太。あたし明日は用事ができちゃったから行けない。チョコレートも今年はなしね」
早口で言い切ると、返事も待たずに背を向けた。背中にふたりの視線を感じる。だけど振り向けない。振り向いて浩太の顔を見たらきっとあたし、浩太にすがって泣いて困らせる。何とか背を向けたのに、精一杯のあたしが無駄になる。
だってあたし、もう分かってしまった。浩太の隣に立つのはあたしじゃないってこと。華乃さんが、彼女だけが浩太にあんなに優しい表情をさせられるってこと。
だってあたしはずっと浩太のことを見てきたもの。本当に、浩太が好きだったんだもの。だから分かるんだよ。
あたし、今は行かなくちゃ。もう困らせたくない。浩太には、ずっと優しく笑っていてほしい。
「絢音」
早く立ち去ろうとしていたのに、浩太があたしを呼んだ。大好きだった声。あたしを呼ぶ浩太の声に、聞こえない振りなんてとてもできずに、あたしはゆっくりと振り向いた。
「……ありがとな、絢音」
それはいつもバレンタインにくれる言葉と同じだった。浩太はあたしの告白に、いつも少し困った顔をしながらこう言った。そして今もこう言う。まるで、明日するはずだった最後の告白に応えるように。
そっかぁ。やっぱり、駄目だったんだね。
きっとどこかでずっと分かっていたんだろう。すとんと、あたしのお腹にこんな思いが落ちてきた。初めて告白して振られたときとは違う、すっきりとした心地だった。
あたしこそ、ずっと好きでいさせてくれてありがとう。
この思いを伝えたくて、あたしは精一杯、笑ってみせた。
「式には呼んでよね。楽しみにしてるから」
大丈夫かな。ちゃんと笑って言えたかな。
あたしの不安には、浩太が答えを教えてくれた。
「当たり前だろ。お前は俺の幼馴染なんだから」
浩太は、嬉しそうに笑っていた。それは華乃さんに向けるものとは違っていたけれど、確かにあたしが大好きだった浩太の笑顔だった。
「うん。……おめでとう。浩太、華乃さん」
それだけ言うと今度こそあたしはふたりに背を向ける。
今はまだ悲しいし寂しいけれど、きっと大丈夫。精一杯、浩太に恋をしていたあたしは、言えなかったこの『好き』を次の誰かに渡すために、さあ、新しい気持ちへと歩き出そう。
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