幼い日

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幼い日

「浩くん。はい、今年のチョコ」    学校帰り、ランドセルからよいしょと取り出した小さな箱を、あたしは気楽な口調とともに手渡した。毎年の恒例行事になっていたから、浩くんの返事もどんな顔して受け取るかももう知ってる。   「あぁ、うん。ありがと」    こんな風にぶっきらぼうになったのはたぶん、小学校に入ったころから。二年生のときにクラスメートに『チョコ渡してる』って騒がれてからだ。  今年はそれに照れくささも混じってる。それがあたしはちょっとだけ不満。恥ずかしいことなんてないのに。照れくさいよりも喜んでいる顔を見たいのに。    それでもあたし、ちゃんと分かってるよ。浩くんが喜んでくれているってこと。だってちょっとだけ顔が赤くなってるし、口元もよく見たらにっこりしてる。だから大丈夫。それにね、ぶっきらぼうで照れ屋な浩くんもあたしは好きなんだよ。なんて、こんなこと言ったらもっと顔が赤くなっちゃうかな。
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