告白

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告白

 いよいよバレンタイン当日。きれいにラッピングした手作りのチョコを手に、あたしは浩太の家の前に立っていた。いつものバレンタインよりも数段緊張しながら、電話で浩太を呼び出す。   「よ、絢音」    今日が何の日かも、あたしに呼ばれた理由も分かっている顔で、のんびりと出てきた浩太。ほとんど毎年の恒例行事くらいにしか思ってないんだろう。だけど今年はきっと特別な日になる。これからずっと、特別な日に。   「あの、ね。浩太。話したいことがあるからちょっと来てくれない?」    それだけ言うと返事も待たずに背を向けて歩き出す。本当は怖くて顔も見れなかったんだけど。    すぐそばの公園に着くと、今は誰もいないベンチに座る。この季節にしては珍しくぽかぽかと暖かな日差しが心地よかった。  きっと言える。きっと上手くいく。青空までもあたしを応援してくれているみたいに思えて緊張と同時に嬉しくなってくる。   「浩太。これ、バレンタインの」 「ん。いつもありがとな」    ここまではいつもと同じ。浩太も慣れた雰囲気で受け取ってくれた。   「あのね、浩太。あたし……、あたしね」    いよいよだと体を浩太の方に傾けて彼を見上げる。いつもより少しだけ近い距離。だから気が付いた小さな違和感。少し見上げないと浩太の顔が見えないこと。いつの間にかこんなに背が高くなっていたんだね。いつもそばにいるから気が付かなかった。  だけどこのときはこんなことを考える余裕なんてなかった。ただ『好き』という二文字が頭の中をぐるぐると回っていた。   「浩太のことが好きなの」    思い切ってひと息に言った。もう浩太の顔も見れなくてただ俯いてベンチをじっと見つめていた。  何も聞こえない。返事がない。 ……どうして? 受け入れてくれないの? あたしじゃ駄目なの? ねぇ、浩太。    静かなことが不安で怖くて、だけど返事を聞くのも怖くて、あたしはただ俯いているしかできなかった。   「……ありがとな、絢音」    そんなあたしにぽつりと降ってきた小さな声。だけどその声はなんだかとても暗かった。   「でもごめん。俺、お前のことは幼馴染としか見れない」      目の前が、暗闇に染まった。
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