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バレンタイン
それからいくつものバレンタインを、あたしは浩太への告白を恒例行事のようにして通り過ぎていった。毎年、困った顔で『ごめん』と『ありがとな』と返す浩太と、それでも『好き』とチョコを渡し続けるあたし。あとから思えばそれはとても滑稽だったかもしれない。好きな人をただ困らせてしまうだけの告白だった。
だけどあたしは真剣だった。毎年、今年こそはと期待と緊張を胸に想いを告げていた。困る浩太の表情すらも、あたしへの思いやりだとその優しさに温かな感情を覚えていた。
大学入学を機に互いに家を出、就職を機に離れた土地に住み、年を追うごとにあたしたちの距離は離れていく。
だけどバレンタインだけは、あたしと浩太の距離は昔と同じに近くなった。会いに行ったときもあれば、忙しくて宅配便で送ったときもあった。そんなときでも電話で必ず、『好き』と伝えた。返事はいつも『ごめん』だったけれど、そんなやり取りさえ浩太と話すきっかけにできて嬉しかった。
そして最初の告白から十年が経ったお正月、実家に帰ったあたしにお母さんから告げられた事実が、そんなきっかけさえ奪い取るようだった。
『浩太くん、結婚するらしいわよ』
十年前と同じに、もう一度、目の前が真っ暗になった。
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