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「幻のカリッとシュー」2
都会から小一時間ほどにある巨大なショッピングモールは、屋外の遊園地が併設された公園、水族館など、一帯を再開発した一画にあり、土日ともなるとかなりの賑わいで携帯の電波が届かないこともあるほどだった。
夏の暑さ、冬の寒さから逃れるように館内に入ると、よく目につく1階の入り口近くの角に、そのケーキは屋さんは鎮座していた。
華やかな見た目と、思いのほかお手頃なそのスイーツを、お土産に持ち帰る客も多く、いつもそのケーキ屋さんは賑わっていた。
私が初めて「桃のパイ」を購入してから数年経った今年、毎日時間限定で販売する「カリッとシュー」の存在に気がついた。
カリッとしたシュー生地に、こだわり卵をふんだんに使った自慢のカスタードクリームを1.5倍詰め込んだという一品らしい。
当初は、それほど興味を持たなかったが、購入したという人のSNSにアップされた写真を見てから、俄然気になってきた。
週に2-3階は通っているのだが、実物を見た記憶がない。
販売時間早々に売り切れるのか。
他の用事でショッピングモールを訪れる時も密かに、シュークリームの存在を確認しに行くようになった。
しかし、かれこれ5回程は空振りが続いている。
毎日午前10時半と午後5時という販売開始時間きっちりに店舗に行けたことはない、とはいえ、販売開始30分後でもその姿はもうそこにはない。
毎日何かしらの用事はあり、ちょうどいい時間には都合はつかないものの、この2つの販売時間を頭の片隅にしっかり刻み、隙あらばと狙ってはいるが、うまくいかない。
そんな日が2週間ほど続くと、私の頭の片隅どころか、割と大きな部分を占める事態に陥った。
どうしてもシュークリームを見たいなら販売開始直前に行くしかない!
車の点検予定のとある日。
車を預ける店からショッピングモールまでは片道10分。
今からならお店に寄り、予約している代車に乗り換えれば午前10時半開始の少し前には、ケーキ屋さんに到着するはず。
車を預けるお店に事前に今から伺う旨と代車の件を電話で連絡をして、これで完璧だと店へ。
自車を預けると店内で待つように指示があり、代車の準備と預かり証の記入のためかと案内されるままに席に着いたが、担当者は一向に戻ってこない。
お茶を運んでくださった方にも、担当営業に聞いてみても、今代車の準備中だという。
到着後20分が経ちさすがにと席を立って確認をお願いしたところ、代車の件を失念していたそうで、そこからは1分も経たずに出発できたが、痛いロスタイム20分。
すでに時は10時半。
ここから10分で到着すると、販売開始から10分後に到着となる。ひょっとすると、1個くらいは残っているかも知れない。
私は、慣れない代車を慎重に運転しながらも心は急いていた。
急いでいる時ほど、進みは遅く感じるもの、、
というには無理があるほど道路は混雑。
程なくして”工事中”の看板が現れた。
年度末恒例の道路工事?と頭に浮かんだのは気が急くあまり苛立っていたのかも知れない。
実際の工事現場は、道路脇の草が伸びて道路の一車線を半分ほど覆ってしまっていたので、恒例の工事ではなく、緊急性の高い必要な工事だったので、工事の皆さんには感謝と勘違いへの謝罪の気持ちで通り過ぎたが、車線が減ったことによる渋滞はいつもより到着を10分ほど遅らせてしまった。
到着したのは、10時50分。
販売開始からすでに20分経過していたが、私の中では最速記録だ。
逸る気持ちをパワーに変えて、駐車場の階段を駆け上がる。
10時52分を指す精算機の時計を横目にケーキ屋さんに急ぐ。
しかし、ダッシュも空しく出迎えてくれたのは
「カリッとシュー17時販売にむけて準備中」という看板だった。
ロスタイムの20分が痛かった。
しかし、この平日の朝から完売するシュークリームとは一体ナニモノ?
「幻のカリッとシュー」に対する私の想いは一層、募るのであった。
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