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「確かに、これは思う通りになったのかもしれないな。ゴネ続けたら仕事まで無くなってたのかもしれない」
「そうですよ。有名なんですから、こんな事故が無くても良いじゃないですか」
帰るときに依頼人が落ち込んだ話をしていたが、秋森からの言葉を聞くと生き返っていた。
「そうだな。次の企画を考えないと!」
離れるときにはもうスキップまでしている。今回の事故で依頼人は登録者も増やしていたので、その点では勝ちとなる。
「あのポジティブシンキング、呆れるわ」
遠くなった今回の依頼人の背中を見ながら、秋森はため息をついていた。
「しかし、元々こんな算段だったなんて。俺までだまして。秋森さんはホントに人が悪い」
「んあ? 騙すときはまず味方からって言うじゃない。それにあの依頼人も実際にはあんな高額請求を望んでないよ。動画のネタとして美味しかっただけ。あたしも騙されたんだよ」
騙されたと言う秋森の顔にはくやしさなんて微塵も無い。
「解ってたなら、騙されたとは言わないんですよ。こんな人と一緒だと疲れます」
「文句あんならコンビ解消するか?」
秋森が睨んでいる。でもそれは本来の怖さは無かった。
なので前島は一度秋森を眺める。
「取り敢えずは続けますよ。惚れましたから」
この前島と言う男、その惚れっぽさには定評がある。
しかし、秋森はそれを知っているのでちょっと引いていた。だけど、その時に前島の笑い声が聞こえる。
「弁護士の才能に、ですよ」
「あんだよ。焦らせんな! ほら、雑務が残ってんだから」
楽しそうに笑った秋森が前島の肩を叩いてから事務所に戻った。
「嘘になる」
聞こえない様にふわりと呟いてた。
おわり
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